【医師監修】人間の体は菌だらけ?体の味方、常在菌とは
「菌」というと、健康を害する「病原菌」のイメージを持つ方も多いと思います。しかし、人間の体にはもともとたくさんの菌が棲みついていて、免疫力を高める、肌をきれいにするなど、私たちの役に立ってくれる菌もいることをご存知でしょうか?
健康な人の体に日常的に存在する菌、「常在菌」。
その中でも皮膚に存在する「美肌菌」の命名者である出来尾先生の監修にて、常在菌の働きと美肌菌がどのようなものか解説します。
人間と菌は共生している
「バイ菌」「病原菌」など、体に悪いものというイメージを持たれることも多い「菌」。
日常生活においても、病気を避けるために身の回りの除菌や抗菌を心がけている方も多いと思います。
そもそも菌とは生きている小さな微生物です。
そう聞くとさらに気持ち悪く感じられるかもしれませんが、微生物は、空気、水、土、植物や動物の体など、地球上のあらゆるところに存在しています。その数は膨大で、私たちが把握できているものは全体のほんの一部だといわれています。そして、その全てが悪者というわけではないのです。
ヨーグルトや乳酸菌飲料に入っているビフィズス菌や乳酸菌も菌のひとつ。健康によいと人気がありますよね。また、パンづくりにかかせない酵母なども菌の一種です。
一方で、大腸菌やコレラ菌、カビといった、人間の体に害を及ぼす菌もあります。私たちが生活しているあらゆるところに菌は存在しています。
体内にも生きている菌たち
こうした菌は、私たち人間の体にも多く棲んでいます。人間の体の中で、外界に接している皮膚、そして、外界から摂取した食事や飲みものに接する消化器官などには菌が私たちと一緒に生きていて、その菌たちは「常在菌(じょうざいきん)」と呼ばれます。
腸内にいる細菌が私たちの健康にとって大きな役割を果たしている、といった話を耳にされた方もいると思います。常在菌は、顔の肌には顔の肌の菌、腸には腸の菌と部位によって固有の菌が存在しています。さらに、菌の種類や割合は一人ひとり違います。
親子でも異なるほど、それぞれの体の環境に適応した菌が定着しているのです。
常在菌は、私たちの体にただ棲みついているというわけではありません。実は人間が生きていく上で欠かせない、さまざまなメリットをもたらしてくれています。
腸内に棲む菌「腸内フローラ」についてはこちら▼
体の敵と味方がいる常在菌
人間はいつから菌と共生しているのでしょうか。
赤ちゃんは、お母さんのお腹の中では無菌状態で育ちますが、生まれ出る瞬間からさまざまな菌にさらされていきます。
まず、生まれるときにお母さんの産道に付着している菌を受け取ります。その後も、日々の生活や人とのスキンシップの中でさまざまな菌に接触。
少しずつ菌が体に定着していき、常在菌となっていくと考えられています。(※1)
善玉菌・日和見菌・悪玉菌とは?
常在菌は、体にどのような影響を与えるかによって、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の大きく3つに分類されます。(※2)
まず、体にとって良い影響をもたらしてくれるのが善玉菌です。例えば、腸内細菌のうち、ビフィズス菌や乳酸菌は善玉菌です。消化や吸収をサポートし、悪玉菌の増加を防いでくれます。
逆に、病気の原因となるなど、悪い影響を及ぼすのが悪玉菌です。例えば黄色ブドウ球菌は、肌の上に棲む悪玉菌。アトピー性皮膚炎や肌荒れを悪化させる原因の一つとされています。(※3)さらに、体内に入ると食中毒や肺炎を引き起こすこともある、病原性の強い菌です。
そして、そのどちらでもないのが日和見菌です。環境に応じてその役割が良い方にも悪い方にも変わります。
例として、私たちを悩ませる顔にできるニキビ。このニキビは日和見菌であるアクネ菌という菌が関係しています。アクネ菌は、普段は肌に潤いを与え、弱酸性に保つ働きをしてくれるありがたい菌ですが、毛穴が詰まり酸素のない環境では、過剰に増えてニキビの原因に変わってしまうのです。(※4)
顔に棲む「美肌菌」の働きについてはこちら▼
常在菌が人体にもたらす良い作用とは
常在菌が人間の体にもたらしてくれる良い作用のひとつは、他からやってきた病原菌を定着させないようにするバリア機能です。
健康な人の体においては、体の部位ごとに、その環境に適した菌の種類・数・割合のバランスが保たれています。そのおかげで、外部から体に適さない菌がやってきても、容易には棲みつけないようになっているのです。常連のお客さんで満席になっているお店のようなイメージといえばわかりやすいでしょうか。
また、常在菌は体の免疫システムの働きを高める作用もあります。特に腸は食べ物などに付いている細菌やウイルスなどに常にさらされており、病気から体を守る最前線といえます。そのため、私たちの体の免疫システムはおもに腸で調整されています。常在菌は免疫を刺激して人のもつ抵抗力を強化してくれるのです。
肌フローラとは?美肌を守る皮膚常在菌
皮膚の上でも皮膚常在菌が私たちの健康を守っています。
人のお肌は弱酸性である、ということは聞いたことがあるのではないでしょうか。この、弱酸性の肌を保ってくれているのが別名「美肌菌」とも呼ばれる表皮ブドウ球菌です。
肌のpHバランスが酸性に保たれていることで、酸性を苦手とする悪玉菌が増えることができず、肌が健康に保たれているのです。
このように、悪い働きをする菌の増殖を抑制するのも、常在菌の良い作用の一つです。
しかし、ひとたび常在菌たちのバランスが崩れ、悪玉菌が優位になると、体にさまざまな悪い影響を与える原因となります。大事なことは、適切な菌が常に良いバランスを保っていることなのです。
「美肌菌」と呼ばれる「表皮ブドウ球菌」について詳しくはこちら
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常在菌の良いバランスを保つには
私たちの体は、適切な場所に適正なバランスで常在菌が存在することで健康が保たれているといっても過言ではありません。
では、極端な話、菌が体からいなくなってしまったらどうなってしまうのでしょうか?
完全に無菌状態で育てたマウスは寿命が長くなる、という研究結果があります。(※4,5)
常在菌を持たないマウスは、無菌ルームで元気に暮らすことができます。実は、常在菌は生きていく上での必須なものではないのです。
ただ、多くの菌にさらされる環境で生きざるを得ない私たち人間にとっては別の話。良い菌がいない場所に悪い菌が棲みつこうと常に狙っています。
例えば、抗生物質は常在菌の働きにも影響を与えます。抗生物質を飲むとお腹が緩くなることがありますが、これはお腹の常在菌にまで影響を与えてしまうからです。また、特定の抗生物質を使い続けていると、耐性を獲得した菌が現れて抗生物質が効かない感染症を起こしてしまうこともあります。
菌が何によって減り、増えるのかを知っておくことも大切ですね。
常在菌はなぜ増えたり減ったりするのか
菌の増減に関わってくるポイントの1つは、菌にとっての栄養です。
例えば、腸内の善玉菌は、菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖をたくさんとることで増やすことが期待できます。逆に腸内の悪玉菌は肉などのタンパク質、脂質が中心の食事によって増えてしまいます。
栄養といっても食物だけではありません。皮膚常在菌の善玉菌である表皮ブドウ球菌は皮脂や汗をエサとしています。
善玉菌を増やして常在菌の良いバランスを保つためには、日ごろからバランスの良い食事をとる、適度に汗をかく運動をする、といった生活習慣が大切です。良い菌を育てる生活を心がけましょう。
菌ケアでするべき食事や習慣はこちら▼
常在菌を知ることで健康に菌と生きる
人間と菌は自然と助け合う共生関係を築き上げてきました。常在菌について正しい知識を持ち、働きやすい環境をつくってあげることで、心強いボディガードとして働いてもらいたいですね。
次の記事では、体で共生する常在菌の中でも、特に肌を健やかに美しく保ってくれる常在菌、「美肌菌」についてご紹介します。
「美肌菌」と呼ばれる「表皮ブドウ球菌」について詳しくはこちら
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【参考文献】
- 牧野博ほか. 新生児・乳児期の腸内細菌叢とその形成因子. 腸内細菌学雑誌. 2019, 33, p15-25
- Kobayashi T et al., Dysbiosis and Staphyloccus aureus Colonization Drives Inflammation in Atopic Dermatitis. Immunity. 2015, p756–766.
- Tazume S et al., Effects of Germfree Status and Food Restriction on Longevity and Growth of Mice. Experimental Animals. 1991, p517-522
記事の監修
岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。
INSTAGRAM : @yutaka411985 , @yourkins_official
X : @yutaka_shimo