『台所漢方』漢方栄養士・古尾谷奈美さんインタビューVol.1心身の健康と腸の関係編
そんな時に知っていると心強い”漢方のいろは”。身体の仕組みと、体質や季節を意識した養生を知ることで、健やかに過ごすヒントが見つかるかもしれません。
前編のテーマは腸内環境について。東京・中目黒の漢方専門店「台所漢方」の漢方栄養士、古尾谷奈美(ふるおや なみ)さんにお話を伺いました。
漢方を通して生活を見直し、身体全体を健やかに導く
最初に、漢方の基本的な考え方や不調の捉え方をお伝えするために、私たちがこの『台所漢方』をオープンしたきっかけからお話しますね。
約40年前、私の母は薬剤師として働いていたのですが、副作用があることを知りながら薬を処方することに違和感を覚え、このことをきっかけに漢方に興味を持ち、漢方薬局をオープンしました。西洋医学では手の施しようがない末期の重病を患う方が藁をもつかむ思いでかけこまれることもあり、なかには亡くなっていく人もいらっしゃいました。
私たちにできること、できないことを実感するなかで、”いかに病気になる前に手を差し伸べ、未病を改善できるか”が私たちの役割であり、漢方の本質、魅力ではないかと感じています。
体質や症状から不調の根本を探り、身体全体を整える
漢方というのは中国で発祥した考え方ですが、日本の風土や気候、食生活に合わせて日本独自の進化を遂げた東洋医学です。漢方=漢方薬というイメージもあるかもしれませんが、私たちが特に大切に伝えているのは、日々の食生活です。
体質や症状を診て、今必要な漢方薬を処方するだけでなく、季節や悩みにも合わせたその人その人に必要な食事まで含めて提案します。
創業当時の40年前は、今のようにオーガニックスーパーや漢方を気軽に変える薬局は少なく、自然食や泥付きの無農薬野菜の販売も行ってきました。
東洋医学の原点でもある”食”の大切さを軸に、病気になる前の自分の不調を捉える力をつけていくことで、気になっていた症状だけでなく身体全体が整っていく。漢方の理論をもとにその手助けをしています。
春夏秋冬、気血水、体質や症状にあわせて診る、漢方のいろは
漢方には、身体を構成する要素として”気・血・水”という考え方があり、この3つが過不足なく、身体をスムーズに巡る状態を作ることが、健やかな体質作りに欠かせません。簡単にいうと、気は目に見えないエネルギー、血は身体に流れる血液やその働き、水はリンパ液などの体液というようなイメージです。
その人それぞれの体質や症状を把握した上で、気・血・水のどこに不足や滞りが起きているのか診断し、必要な養生を行うことで、不調の改善だけでなく身体全体を整えていきます。
臓器を”肝・心・脾・肺・腎”の5つに分けて考える
不調がどこに現れていてどこを養生すべきかを診ていく指標として、身体の臓器を”肝・心・脾・肺・腎”の5つに分類します。それぞれの働きと照らし合わせることで、どこに不調が出ているのかを診ます。
日本の場合は四季がありますので、体質だけでなく、春夏秋冬の気候によって不調の出やすい場所や症状があります。例えば秋は、空気が乾燥し気温が下がってくることから、五臓でいうと”肺”を痛めやすい季節と考えられています。
肺は呼吸に関連する働きなので、咳や粘膜のトラブルからはじまる不調を防ぐための養生を取り入れる提案をします。
腸内環境の健康は気持ちの健康に繋がっていく
今回のテーマである”腸内環境”について漢方視点で捉えると、気・血・水のうち”気”の影響を受けやすい臓器が胃腸にあたります。胃腸は漢方では五臓でいうと”脾”に分類され、消化吸収の働きをコントロールしたり、栄養を行き渡らせる役割を担っています。
また、気・血・水の”気”を作る場所と考えられているので、胃腸が不調だと、気が不足する”気虚(ききょ)”の状態に陥りやすく、やる気がでなかったりクヨクヨしやすくなってしまったり、気持ちの面に影響が出ます。
反対にストレスや疲れでエネルギーが不足すると、食欲がなくなったり下痢をしてしまったり。胃腸にトラブルが出やすいです。
みなさんも普段の生活の中で、ストレスを感じたり緊張するとお腹が痛くなったり胃がキリキリしたりという経験がある方も多いのではないでしょうか。
「脳腸相関」は漢方の理論にも当てはまる
腸内環境の不調と気持ち(脳)の相関性というのは漢方の理論においてだけでなく、現代医学でも”腸脳相関”といって腸内環境と脳の関連が明らかになっていますよね。
腸は副交感神経が優位なときに活発に働くと言われていますが、ストレスや緊張状態が続いていると交感神経が優位になりやすくバランスが崩れて、腸の働きを悪くしてしまいます。
反対に、腸内環境が整うことによって副交感神経が優位になるとも言われており、腸と脳の関係を物語っています。
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食生活を見直して、腸も心も整える
健やかな心と身体の基礎となる腸内環境づくりには、食生活が切っても切り離せません。漢方では、食養生をとても大切に考えていて、”薬膳”として体系化されています。四季に合わせた旬のものをいただくことや、季節と対応した五味や色を意識した食材を取り入れることで、新たな季節を迎えた時にその変化にゆらぐことなく過ごせるように考えられています。
また、1つのものを丸ごと食べる”一物全体”を原則に、野菜や果実であれば皮や茎、根っこまで、穀物は精製せずに食べるということも大切にしています。
丁寧に食べる
食べるものだけでなく食事の取り方も大切ですね。
交感神経が優位になる朝にしっかり食事をとることで、副交感神経も活発になりバランスが良いと言われています。また、腸内環境の状態、菌のバランスが漢方薬の薬効に影響を及ぼすことも研究されていますね。
先ほどの腸脳相関の話につながりますが、例えばメンタルを強くするって一朝一夕でできることではないですよね。気持ち(脳)を無理やりコントロールすることは難しいけれど、胃腸を元気にする食事を心がけることで、ちょっとしたストレスを跳ね返す力を蓄えていくようなアプローチが大切かなと感じています。
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季節や体調によってアレンジ自在の腸に優しい 菌ケア薬膳レシピ
今回ご紹介したいのは、”酒粕のお味噌汁”です。腸内環境を整えるには善玉菌を活性化させることが大切。善玉菌を増やしてくれる発酵食品の中でも、植物性のものは胃酸で壊れず腸に届きやすいと言われています。
えのきとカボチャで作る秋の酒粕味噌汁 レシピ
今回のレシピでは秋の養生に良い「白い食材」から”えのき”と、身体を温め胃腸を丈夫にしてくれる”かぼちゃ”を具に入れていますが、四季折々の旬野菜に変えると飽きずに楽しめますよ。冷える時期は辛味をプラスしたり、逆に火照るならこんにゃくなどもおすすめです。
材料 (約2人分目安)
味噌→40g
酒粕→大さじ1強
えのき→60g
かぼちゃ(胃腸を丈夫に) →150g
作り方 :
1.鍋に一口大のかぼちゃときのこ類をいれて中火にかけます。
2.酒粕をあらかじめ少量の水でとかしておきます。
3.沸騰したら火をとめて、水で溶いた酒粕と味噌をいれたらできあがりです。
今回の材料について
今回ご紹介したレシピの食材は、腸内細菌を意識する「菌ケア」的にもおすすめなものばかり。発酵食品で良い菌を取り入れたり、腸内細菌のエサとなる水溶性食物繊維を摂れるレシピになっています。
<えのき>
*キノコは本当は何種類も入れると良いですが、えのきだけでも美味しく仕上がります。鍋に水から入れ、ゆっくり煮詰めてだしを取り出します。
*えのきは特に水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方をもっていますがとくに不溶性食物繊維が豊富。食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類ありますが、不溶性食物繊維は、胃や腸で水分を含んで膨らみ、腸を刺激することで便通をよくする働きがあります。
*ビタミンB1とB2とカリウムを豊富にふくみ、水にとけやすいのでコトコト煮込んで水から栄養出汁をとります。
<味噌>
*熱を60度以上くわえると味噌も酒粕の菌が死んでしまうことがあります。火を止めて入れることがおすすめです。
<酒粕>
*ちぎって水にふやかしておくと良いです。
おまけで一品<酒粕と味噌のディップもおすすめ>
熱をくわえると菌が死んでしまうので気にする方は、2種類をブレンドしたディップもよいかも。
2つを弱火で熱して、そこにみりんとかマヨネーズ、醤油を加えて混ぜます。
そうすると温野菜のディップに。余った酒粕で作ってみてくださいね。
食養生を意識することで、菌ケアにもつながっていく
今回のお話では、薬膳の視点で食養生していくことは、腸内環境を整えることにもつながる部分があるとわかりました。
どちらもやはり日々の食で、整えていくことが大切。病気になる前に健やかな体内環境を保てるよう、歴史ある漢方や薬膳の叡智も取り入れながら、自分に合った菌ケアをしていけるといいですね。
取材先
漢方専門店「台所漢方」の漢方栄養士、古尾谷 奈美 (ふるおや なみ)さん
総合漢方研究会、漢方実践研究会にて漢方を学び、母の下にて食療、食養、薬草を学び、漢方に特化した栄養士、「漢方栄養士」として漢方相談も行っている。薬草植物学(本草学)を研究しながら、体にやさしく安全でナチュラルな成分でカラダをきれいにする“漢方ライフ”を提案。病気になりにくいカラダ作りを重視した漢方カウンセリングを行っています。
記事の監修
岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。
INSTAGRAM : @yutaka411985 , @yourkins_official
X : @yutaka_shimo