掲載日 | 2023.03.21
更新日 | 2023.03.21

無農薬エディブルフラワー農園から学ぶ、小さないのちとの共生

掲載日 | 2023.03.21
更新日 | 2023.03.21
身体に棲む常在菌のはたらきについて日頃お伝えしている、私たちKINS LAB。

そんな菌たちは身体だけではなく、地球上のいたるところに存在しています。

空気中や、植物たちのいるところ、そして土の中にも。
人間の体内に常在菌が不可欠なのと同様、自然界の中で菌たちは、小さいけれど大きな存在

今回は、そんな小さないのちについて真剣に考えている、滋賀県のエディブルフラワー農家さんにお話を伺いました。

養蜂に関わる祖父母との暮らしが始まり

農園に立つ山崎さん
画像提供元:IZUMI YAMASAKI

編集部:エディブルフラワー(食用の花)は最近では認知も高まっていますが、山崎さんはどのようにその世界に入られたのでしょうか?

山崎さん(以下敬称略):元々長野の田舎育ちで、18歳までは大家族の実家で祖父母と一緒に住んでいました。祖父母は農家を営んでおり養蜂もしていたので、植物や蜜蜂の存在が身近にある環境で育っています。

子供の頃から祖父母の作る食べ物に触れながら育ったので、農は当たり前に身近に感じているものでした。

ただ、いつかは農業に関わることをと思ってはいましたが、2013年に初めにした起業は「コワーキングスペースの運営」。花作りは娘が喜ぶからと、借りた畑の一角で趣味でしていた程度だったんです。

きっかけになったのは2015年頃、「蜜蜂の大量死」が世界各地で報告され始めたことでした。

農薬による蜜蜂の大量死が実家に与えた影響

(イメージ画像)

山崎:農薬による蜜蜂の大量死ってご存じですか?

編集部:海外では規制がかかっている国もある、農薬の「ネオニコチノイド」問題でしょうか?

山崎:そうですね。2010年頃から農薬による蜜蜂の大量死が知られ始めた以降、祖父母の養蜂園でも実際に蜜蜂の大量死が起きていたんです。

十数箱あった巣箱は2-3箱を残して、一時期ほぼなくなってしまいました

日本では強い規制がなかったものの、海外で「大量死した蜜蜂からネオニコチノイドが検出された」という報道を見たりして、純粋に怖いなと。蜜蜂は小さな存在ですから、簡単に死んでしまいます。

祖父母の扱う蜂蜜などは自分も食べて育ってきているので、そういったものがいつかなくなってしまう、次の代に残せない世界になってしまうとしたら嫌だなと考え始めました。

蜜蜂の死をきっかけに考え始めた、持続可能な農のこと

編集部:ネオニコチノイドが蜜蜂に影響を与えるというのは、日本ではあまり取り上げられていないイメージもありますね

山崎:国内でも新聞記事などが出ていたことはありますが、厳しく規制されているわけではないですね。

私としては「農薬反対」と強く掲げたいというよりは、自分のしていることが何かの考えをもたらすきっかけになればという気持ちでやっています。

例えばネオニコチノイド系の農薬は水田などでよく使われるとされていますが、農薬があることで安定した米の供給が得られている、といったような一面もあると思うので…。

ただ「安全な蜜源があれば蜜蜂は生きられる」ということは確かなので、無農薬の花を育てることで、私に掲げられることを試していこうという気持ちで始めました。

今は花のみで養蜂は行っていませんが、いずれ巣箱も置けたらと考えています。

師との出会いで知った「土」と「花」の関係

画像提供元:IZUMI YAMASAKI

編集部:無農薬栽培ということですが、発酵した堆肥の中にも菌のような微生物がたくさん生きていますね。そういったことを感じる機会はありますか?

山崎:はい。土づくりはとても重要です。

堆肥づくりは今も、コンサル的に助けていただいている橋本力男さんという専門家の方から色々教わっています。

以前社会人向けの教室でエディブルフラワー栽培について教えていたのですが、その際にご一緒した橋本さんに、うちの土づくりについて話すことがあって。

「あんたそれじゃあ、だめだー!面倒みてやっから!」と言ってくださったのがきっかけで、今もお世話になっています。(笑)

初めの頃は土を栄養過多にしてしまって、お花が病気になってしまうようなこともあったんです。
でもそうやって土や環境がよくない時、花がきちんと「ここは嫌だよ」と語りかけてくれているようにも感じました。

有機農業のスペシャリスト・橋本さんの助言

編集部:橋本さんは有機堆肥の専門家で、堆肥の発酵についての著書もある方ですね

山崎:そうです。やはり土づくりの実践を重ねているプロに教えていただくことは、とても大きかったです。

植物にとって一番必要なのって「水」や「土」もそうですが、まず一番に「酸素」なんです。

土づくりでは土の中に酸素があって、きちんと水を吸い上げられることがまず大切。そういったことも橋本さんに教えていただくまで気付けませんでした。

画像提供元:IZUMI YAMASAKI

編集部:お花は野菜ほど栄養が必要ないのでしょうか?

山崎:野菜と違って花は栄養がそこまで必要ないとされていて、栄養過多になると根が伸びなかったり病気になったりしますね。

うちで剪定したビオラを水に挿すと、3週間くらいもつし水も臭くならないんです。切り花って置いておくと、花瓶の水がドロッとして臭くなってしまうじゃないですか。水が臭くなるのは農薬が出ているから…という説もあります。

エディブルフラワーが伝える想い

画像提供元:IZUMI YAMASAKI

編集部:あらためて、今扱われているエディブルフラワーについても教えていただけますか?

山崎:今うちの農園では年間20-30種類くらいを栽培していて、野菜のように季節のものを楽しんだりできるのもエディブルフラワーの魅力です。農園ではビニールハウスで季節違いの花も作っているので、一年中色々な種類が楽しめます。

アリッサム、フロックス、マリーゴールド、コスモス、カレンデュラ、ビオラなどが代表的ですね。

ただこれらは食用に栽培しているものなので、ガーデニング用に売られている苗のお花とは違います。同じ名前でも食べることを前提としていない場合、どのような薬品が使われているかわからないので…間違って食べてしまわないよう、サイトでも注意書きを載せています。

お祝いや感謝の気持ちをのせるエディブルフラワー

編集部:華やかでお祝いごとなどに贈られるイメージがありますが、そのような需要が多いですか?

山崎:確かに3-4月くらいのお祝いシーズンは忙しいです。

お花は、お祝いや感謝で手渡されるものですよね。食の中でもそのように、贈る人の想いをのせられるようなものを作れたらと思っています。

ママさんが「子供の誕生日ケーキに、こんな色の花を使いたい」などとご相談くださったりすることもあって。小さな農家だからできるコミュニケーションですし、ありがたいことだと感じています。

エディブルフラワーの乗ったタルト
画像提供元:IZUMI YAMASAKI

生産者ならではのエディブルフラワーの使い方

編集部:生産者さんならではの取り入れ方などもあったりされますか?花のオトナ使いなど…

山崎:ドライフラワーも作っているのですが、賞味期限が1年と長く、焼いても鮮やかな色合いが保てるようになっています。

その特長を活かしてマカロンの開発も行っているんです。ごく自然な退色程度はあるものの、長期で綺麗な見た目を保てるのでおすすめです。

ドライエディブルフラワーを貼って焼かれているマカロン
画像提供元:IZUMI YAMASAKI

あとは、お菓子に限らずラテに浮かべるなんて楽しみ方もありますね。

私だけでは活かし方のわからないものも、扱ってくださっている東京のパティシエさんが「これはクリームチーズに合う」などと教えてくださることもあります。

エディブルフラワーの栄養価とは?

画像提供元:IZUMI YAMASAKI

カラフルなエディブルフラワーは、野菜や果物と同様に栄養価も豊富なのでしょうか。

腸活目線でいうと、エディブルフラワーは種類によって食物繊維が豊富だったとされるデータもあるようです。(※1)

この研究では花の種類だけでなく、同じ花種でも花弁の色の違いによって、食物繊維含有量に差が認められたそう。インパチェンスでは赤よりも白のほうが不溶性食物繊維が2倍多いという結果だったというのも、興味深いです。

作り手である山崎さんはどう捉えているのでしょうか。

成分調査にかかるコストをまずは品質に

編集部:エディブルフラワーの栄養価について、生産者さんが調査をされることはあるのでしょうか?

山崎:ひとつの栄養成分を調べるのにも多大な費用がかかってしまうので、小さな農園だとなかなか調査は難しいです。

業者さんによって独自で調査されているところもあると思いますが、私たちの場合はまず良い土で良いものを育てるというところにリソースを優先していますね。

ビタミンやポリフェノールが含まれるものも?ただ食用でないものには注意

山崎:ただ一般的に言われているところとして、色からも想像できるようにビタミンが多いとか、ビオラの紫はポリフェノールが多いらしい、といったことは耳に入ってきます。

編集部:確かに情報は少ないですが、栄養豊富というデータも見受けられます。逆に食べるうえで注意が必要な点はあるのでしょうか?

山崎:エディブルフラワーとして作られているものはいいのですが、やはり間違って観賞用の花を食べてしまうことは心配ですね。

例えばアジサイは見た目は綺麗ですが毒があります。うちでも似た色合いのものを販売していたりしますが、混同して一般的な観賞用の花を食べてしまうことは避けていただきたいです。

毒のないものも、観賞用ということで食品には使わないような栄養剤などが使われているかもしれません。

小さないのちと共に生きる、これからの未来

画像提供元:IZUMI YAMASAKI

蜜蜂という小さな、しかし私たちの食にも関わる大きな存在。

そんな蜜蜂への想いから始まった山崎さんのブランド「IZUMI YAMASAKI」。
小さないのちを守り共に生きることは、私たちKINS LABがテーマにしている「菌との共生」ともつながりを感じます。

花が健康に育つための土壌には、菌のような微生物が深く関わります。
そしてその花があることで蜜蜂が生きることができ、蜜蜂の作ってくれる蜂蜜を私たち人間が受け取っています。

小さないのちのどれかひとつが欠けても、私たちは健やかでいられないのかもしれません。

食べ物を育む水や土、そこに棲む菌や取り巻く虫たち…。

そんなたくさんのいのちとの共生が、途切れず続いてゆきますように。

お話を伺った山崎いずみさんの農園公式サイト
IZUMI YAMASAKI

オンラインストア
食べられる花屋

参考文献:

1.「新規食用花の食物繊維」 山﨑 薫 ,奈良 一寛

記事の監修

株式会社KINS代表、菌ケア専門家
下川 穣

岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。

INSTAGRAM : @yutaka411985 ,  @yourkins_official
X : @yutaka_shimo

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