掲載日 | 2023.09.19
更新日 | 2023.09.19

【専門家取材】子宮内フローラ検査とは? 菌を知り不妊治療に役立てる

掲載日 | 2023.09.19
更新日 | 2023.09.19
無菌と思われていた子宮内にもいることが分かった常在菌。その子宮内フローラの状態が不妊にも影響することが報告され、不妊治療の分野でも注目されています。

前編では子宮内の常在菌について、そのはたらきや妊娠・出産への影響をご紹介しました▼

今回は不妊治療における子宮内フローラ検査や、子宮内フローラを整えるために有効とされている成分などについて、前編に引き続き、Varinos(バリノス)株式会社の執行役員 臨床検査本部本部長の芦川さんにお聞きします。

子宮内フローラ検査でわかること・妊娠との関係

子宮内フローラ検査でわかること・妊娠との関係

雑菌やバイ菌など、悪いイメージを持たれることの多い“菌”。でも、実は人間の体にも多くの菌が共存していて、私たちの健康に欠かせない働きをしてくれていることがわかっています。

近年の検査技術の進歩により、これまで無菌だと思われていた子宮内にもさまざまな菌が存在していることがわかりました。

子宮内の菌の状態から妊娠のしやすさを判断

編集部:子宮内に存在する菌の集まりを「子宮内フローラ」と呼ぶのですよね。

芦川さん(以下敬称略):

そうです。例えば、私たちの腸内には非常に多くの菌が生息しており、それと比べると子宮内にいる菌はごく微量です。それでも多種多様な菌がいて、顕微鏡で見るとお花畑のようであることから、「フローラ」と呼ばれています。

子宮内には主に、乳酸菌の一種である「ラクトバチルス」という善玉菌、また人によっては大腸菌などの悪玉菌が存在していることもあります。ラクトバチルスが乳酸を作りだすことで、子宮内の悪玉菌の増殖を抑えています。子宮内にいる菌の量や種類、また善玉菌と悪玉菌の割合には、個人差がみられます。

編集部:御社では、子宮内の菌を調べる「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化されていますね。どのような検査なのでしょうか。

芦川:子宮内フローラの状態を調べて、子宮内が妊娠・出産しやすい環境か、逆に妊娠・出産しづらい環境かを知るための検査です。

国内でも多くの方が不妊治療を受けていらっしゃいますが、不妊の原因についてはまだまだ分かっていないことも多いのが実情です。そうした中で2016年に、子宮内の細菌の種類や割合によって妊娠率に差が出る、という研究結果が報告されました (※1)。

子宮内ラクトバチルスの妊娠・出産への影響
画像提供元:Varinos(バリノス)株式会社

子宮内の善玉菌ラクトバチルスの割合が90%以上を占める女性と90%未満の女性に分けて妊娠率を調べた結果、90%以上の女性は妊娠率 70.6%、90%未満の女性では、33.3%という結果でした。つまり、子宮内はラクトバチルスの割合が多い状態が妊娠にとって好ましいことを示しています。

「子宮内フローラ検査」とは、この子宮内の善玉菌と悪玉菌の種類や割合を調べることで、不妊治療に役立てていただく検査です。2022年7月には弊社が提供する子宮内フローラ検査(先進医療技術名:子宮内細菌叢検査2)が、保険診療と併用して受けられる先進医療*として認められました。(22年6月30日に先進医療として認定され、7月1日より適用)

*先進医療:新しい治療や医療技術を公的医療保険の対象にするかどうか評価する「評価療養」のひとつ。一定の有用性や安全性は認められているため、国が定めた適応症において保険診療と併用することが可能。

最新の遺伝子解析技術によって実用化

最新の遺伝子解析技術によって実用化

編集部:妊娠を望む方や不妊治療を受けている方にとって興味深い検査ですが、子宮内の菌をどのようにして調べるのでしょうか。

芦川:現在、国内250以上の医療機関でこの検査を受けていただくことができます。綿棒、もしくはピペット(吸引方式採取器具)を使用して子宮内腔液(子宮内の液体成分)を採取し、複数の工程を経て菌が持つDNAを抽出、解析して菌の種類や割合を調べていきます。

この検査で、善玉菌であるラクトバチルスの割合のほか、細菌性腟症や早産・流産にも影響があると考えられる悪玉菌の割合も分かります。検査の結果は、医療機関での治療に役立てられます。

子宮内フローラ検査の工程
画像提供元:Varinos(バリノス)株式会社

編集部:顕微鏡で調べたりするのではなく、DNAレベルで検査していくのですね。

芦川:もともと子宮には菌がいないと考えられてきました。そのくらい、他の部位に比べて子宮には微量の菌しかいないのです。子宮内フローラを構成している微量な菌を解析することは技術的にも難しく、従来の方法では不可能でした。

子宮内フローラ検査では、次世代シークエンサーと呼ばれる専用の解析機器で、それぞれの菌が持つDNAを見ていきます。試行錯誤や改良を重ねることで、精度の高い検査結果を提供することができています。

編集部:もし検査結果で善玉菌のラクトバチルスが少ないことが分かった場合、どうしたらよいのでしょうか。

芦川:不妊治療クリニックなどの医療機関で検査結果から医師が判断していくことになりますが、ラクトバチルスを増やすための処方をしたり、悪玉菌が多い場合は抗菌剤を使用したりするといった治療が行われています。

子宮内フローラを整える成分「ラクトフェリン」

子宮内フローラを整える成分「ラクトフェリン」

編集部:善玉菌ラクトバチルスを増やすものはあるのでしょうか?

芦川:ラクトフェリンという成分があります。

人の涙、唾液、子宮頚管粘液に含まれ、病原菌が外から侵入しないようにバリアする役割をしています。初乳にも多く含まれ、赤ちゃんをウイルスなどから守るはたらきがあります。

ラクトフェリンは、悪玉菌を抑えてラクトバチルスが増えやすい環境を作ることが分かっていますので、子宮内フローラを整えるためには、このラクトフェリンを摂る方法があります。

ラクトフェリンというのは、鉄に結合する性質を持っているんです。

悪玉菌の多くは増殖する時に鉄分を必要とするのですが、ラクトフェリンは周りにある鉄を先回りして奪ってしまい、悪玉菌が増えにくい環境をつくります。一方で善玉菌のラクトバチルスは鉄を必要としていないため、自然とラクトバチルスの割合が増えてくるという作用です。

ラクトバチルスが優勢になると乳酸が多く作り出され、子宮内は酸性環境となり、悪玉菌がさらに減っていきます。

ラクトフェリンを摂るには

ラクトフェリンを摂るには
(イメージ画像)

編集部:ラクトフェリンは聞いたことがありましたが、そんな作用があるんですね。食べ物などから摂れるのでしょうか。

芦川:ラクトフェリンは牛乳などに含まれています。ただ、ラクトフェリンは熱に弱いんです。

低温で殺菌された牛乳やチーズから摂取することが可能ですが、含まれている量が微量なため、かなりの量を食べる必要がありお腹を壊してしまうかもしれません。また、ラクトフェリンは胃酸に弱いという特徴もあります。

赤ちゃんは胃酸の分泌が少ないのでよいのですが、大人が効率よくラクトフェリンを摂るには、腸まで行って初めて溶けるように加工されたサプリメントや飲料を選ぶことが大事になります。

医療機関でも、子宮内フローラの状態を改善するためにラクトフェリンのサプリメントが処方されることがあります。

編集部:サプリメントで摂れるんですね。どんな方にも効果があるのでしょうか。

芦川:効果には個人差があります。早いと1〜2週間で菌の状態が良い方へ変化する方もいますし、そうでない方もいます。また、そもそもラクトバチルスが子宮にいない、非常に少ない方もいます。その場合は、ラクトフェリンだけを摂取しても効果が薄いです。

不妊で悩む方の希望となる子宮内フローラ検査

不妊で悩む方の希望となる子宮内フローラ検査

編集部:子宮内フローラ検査をして、自分の子宮内の環境を知っておくことが妊活には重要なんですね。まず検査をして、その結果からラクトフェリンサプリを摂ることなどで、妊娠しやすい子宮環境に改善できることが理解できました。

芦川:不妊治療の現場において、受精卵の胚の染色体を検査して異常がない場合でも7割程度しか妊娠せず、残りの3割が妊娠しない原因についてはずっとわからない状態でした。

受精卵に異常がないので、子宮側に何か問題がある可能性については考えられてきましたが、はっきりした原因が分からない。

そういった状況の中、子宮側の要因の一つとして、先ほどもお話しした子宮内の善玉菌と悪玉菌の種類や割合によって妊娠率に差が出る、という研究成果が発表されました(※1)。 子宮内の善玉菌と悪玉菌の割合を調べる検査を実用化できれば、不妊で悩んでいる方の希望になると考え、Varinos株式会社は子宮内フローラ検査を世界で初めて実用化しました。

子宮内フローラ検査を提供する企業は、まだ世界でも限られています。国内はもちろんですが世界各国で、お子さんが欲しくてもなかなか機会に恵まれない方々に、私たちの技術で貢献していきたいと思っています。

編集部:まさに命の誕生に関わる研究と事業をされているのですね。本日はお話をありがとうございました。

前編:「子宮内フローラとは・妊娠や出産しやすさと菌との関係」

Varinos(バリノス)株式会社 臨床検査本部 本部長 芦川享大さんから、子宮内フローラ検査(先進医療技術名:子宮内細菌叢検査2)の技術についてや、善玉菌ラクトバチルスを増やす方法などを詳しくお伺いしました。

今回のインタビュー前編では、子宮内フローラが受精卵の着床率や妊娠後の出産率への影響や、子宮内フローラを整える食事や生活についてお話しています▼

【参考文献】

(※1)Moreno I et al.,  Evidence that the endometrial microbiota has an effect on implantation success or failure. Am J Obstet Gynecol. 2016 Dec;215(6):684-703.

記事の監修

株式会社KINS代表、菌ケア専門家
下川 穣

岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。

INSTAGRAM : @yutaka411985 ,  @yourkins_official
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