その不調、過敏性腸症候群かも!?
菌の専門家自身も悩んだ、つらい症状とその治し方
こうした症状があるにも関わらず、病院で異常が指摘されなかったら、不安になってしまいますよね。
もしかしたら、その不調の正体は過敏性腸症候群かもしれません。
この記事では、菌の専門家自身も悩んだ過敏性腸症候群の症状とその治し方を、実体験もご紹介しながらお話ししていきます。
過敏性腸症候群(IBS)とは?
過敏性腸症候群とは、慢性的な下痢や便秘などがお腹の痛みや不快感を伴って起こる病気を指します。
自覚するほどの不快な症状があるにも関わらず、病院での一般的な検査では腸や大腸に炎症や腫瘍などの明確な異常が見られないため、診断が難しいといった特徴があります。
Irritable Bowel Syndromeの頭文字をとって「IBS」とも呼ばれます。
症状のタイプ
過敏性腸症候群は、便秘型、下痢型、混合型、そして分類不能型の4つの種類に分けられます。
便秘型(IBS-C)
IBSの後ろのアルファベットは、Constipation(便秘)の頭文字をとったCです。
このタイプは主な症状が便秘であるという人が多く該当します。男性よりも女性に便秘型が多いという統計も。
下痢型(IBS-D)
IBSの後ろのアルファベットは、Diarrhea(下痢)の頭文字をとったDで、このタイプは下痢が主な症状となります。
下痢型については、責任ある役職につくなど、働き盛りの30〜40代男性に多い傾向が指摘されています。こうしたことから過敏性腸症候群は、ストレスや不安・緊張などの心理的な要因によって腸の異常な過敏反応が引き起こされている可能性が示唆されています。
混合型(IBS-M)
MixのMがつく混合型は、便秘と下痢を繰り返す症状が該当します。
分類不能型(IBS-U)
IBSの後ろのアルファベットは、Unclassifiable(分類不能)の頭文字をとったU。明らかな自覚症状があるにも関わらず、上記のいずれにも該当しないタイプを指します。
過敏性腸症候群で気をつけるべき点
ここまで読んで、「もしかしたら自分も過敏性腸症候群かもしれない」と思った方は、要注意。自己判断で済ませないよう、くれぐれもお気をつけください。
当てはまる症状だけを頼りに、自分は過敏性腸症候群であると自己判断で決めつけることは、実は危険なことなのです。
過敏性腸症候群は、病院での除外診断によって分かる病気。
自分では過敏性腸症候群だと思っていても、実はよく似た別の病気が隠れている可能性もあります。
除外診断とは?
病気には、それぞれの病気の診断基準が設けられています。その基準のいくつかが当てはまったからといって、その病気であると簡単に決めつけることはできません。
その症状が、他の病気から引き起こされている可能性をリストアップし、疑わしい病気の中から一つ一つ消去していく消去法によって最終的な診断をするのが除外診断です。
過敏性腸症候群が疑われる場合は医療機関の受診を
過敏性腸症候群は、病院での検査によって腸の炎症や潰瘍などの異常がないかを見極め、除外診断されます。
けっして自己判断せず、必ず医療機関(消化器内科)を受診するようにしてください。
特に、お腹の症状の他に以下のような症状がある方は、早めの受診をおすすめします。
・発熱がある
・関節痛がある
・血便が出ている
・身体にできものや腫れ、こぶなどの腫瘤がある
・年齢が50代以上の方
過敏性腸症候群の治療ガイドライン
症状が軽い場合は、薬物治療などは行わずに生活習慣の指導などを行いながら様子を見ることもあります。
症状の軽い順から、一次・二次・三次治療としてガイドラインの内容をご紹介します。
一次治療|食事指導とプロバイオティクス
比較的症状が軽い患者向けの治療法としては、食事とプロバイオティクスをメインにした指導が行われます。
過敏性腸症候群の食事指導
過敏性腸症候群は、腸内で異常な過敏反応が起こっている状態。
そのため、腸内の環境を正常にするための食事が理想とされます。
高脂質のものや香辛料、アルコールなどの刺激物はなるべく控え、FODMAPをなるべく抑えた低FODMAP食を中心にした食事法が推奨されています。
FODMAPについてはこの後の項で詳しく解説していきます。
プロバイオティクスとは
腸内環境改善のために役立つ乳酸菌などの善玉菌をプロバイオティクスと言います。
善玉菌には、悪玉菌の増殖を抑えることで腸内環境を調整し、腸の過敏性を緩和する効果が期待されています。
こうしたことから、過敏性腸症候群の治療としては、プロバイオティクスが含まれた整腸剤や食品によって腸内環境の改善を目指すことが有効であるとされています。
二次治療|薬物治療
一次治療でも症状が緩和しない場合は、二次治療として薬を使用した治療にシフトすることがあります。
使用される薬は、抗うつ剤、抗不安薬や精神薬など、ストレスや不安に対して対処する薬が中心となります。
三次治療|心理療法
薬物療法でも軽快しない場合の三次治療としては、心理療法が行われます。
カウンセリングや認知行動療法、漸進的筋弛緩法など、より専門的なストレスケアやメンタルに対してのアプローチをしていく治療になります。
過敏性腸症候群の治療
なぜメンタルにアプローチ?腸と脳の関係
過敏性腸症候群は、その名の通り腸の病気です。
腸の病気の治療にも関わらず、その治療法として精神薬や心理療法などメンタルへのアプローチが必要になってくるのはなぜなのでしょうか。
実は、私たちがストレスを感じる脳と腸には、密接な関わりがあります。
私たち生物が胎内の受精卵から成長する際、1番最初に作られる臓器は、腸。
腸が伸びながら他の臓器が形作られ、その先にできるのが脳なのです。
脳と同じように、腸には多くの神経細胞が張り巡らされていることから「第二の脳」と呼ばれることもあります。
空腹を感じた時に、腸から脳へ「お腹が空いたから、何か食べなさい」という信号が送られるなど、腸も脳と同じように情報を処理し、伝達することができると考えられています。
腸脳相関
ストレスを感じるとお腹が痛くなったり、逆にお腹が空くとイライラを感じやすくなったり。
このように、脳と腸が互いに影響し合う密接な関係にあることを腸脳相関(脳腸相関)と言います。
「腸(はらわた)が煮えくりかえる」や「腹をすえる」などという言葉があるように、しばしば脳で起きる感情はお腹で表現されることがありますね。
この概念は古くから観察され、近年では科学的な研究も進んでいます。
こうしたことから、腸脳相関の考えをベースとしたメンタルへのアプローチは、過敏性腸症候群の治療や管理においても重要とされているのです。
過敏性腸症候群を予防するには?
今は症状がなくても、今後、過敏性腸症候群にならないための予防策を取っておくことが大切です。
過敏性腸症候群の予防|食事
過敏性腸症候群の予防という観点でのおすすめは、やはり腸内環境を考えた菌ケア(※)を心がけるということ。
腸への刺激となり得るアルコールや高脂質の食事などはできるだけ控えると良いでしょう。
また、香辛料や乳製品、食物繊維の摂り方にも注意が必要。
ここでポイントになってくるのが、FODMAPです。
(※)菌ケア:健康維持のために菌でケアするライフスタイルのこと
過敏性腸症候群の方や予防にもおすすめの食事
「低FODMAP食」とは?
FODMAP(フォドマップ)とは、小腸では吸収されにくい発酵性の糖質の総称のことで、以下の単語の頭文字を合わせた言葉です。
F:Fermentable(発酵性の糖質)
O:Oligosaccharides(オリゴ糖)
D:Disaccharaides(二糖類)
M:Monosaccharaides(単糖類)
A:And
P:Polyol(糖アルコール)
これらを多く含む高FODMAP食品を大量に摂ることで、過敏性腸症候群の症状が悪化したり、体質によっては過敏性腸症候群でない人でも腹痛や下痢・腹部膨満などの腹部症状が起こる可能性が指摘されています。
なるべくこうしたFODMAPを抑えた低FODMAP食品を意識的に摂る食生活を送ることは、過敏性腸症候群の症状緩和や予防に繋がると言えるでしょう。
では、実際に私たちの身の回りにある高FODMAP食品と低FODMAP食品にはどのようなものがあるかを見ていきましょう。
高FODMAP食品の具体例
・穀物:小麦(パン、パスタ、ピザなど)
・加工肉:ソーセージなど
・飲み物:麦芽コーヒー、烏龍茶など
・スパイス
・野菜:ゴボウ、さつまいも、カリフラワー、豆類など
・納豆
・乳製品:牛乳、ヨーグルト、クリームチーズなど
・果物:リンゴ、スイカ、アボカドなど
低FODMAP食品の具体例
・穀物:米、玄米
・飲み物:コーヒー、紅茶、緑茶など
・野菜:トマト、ブロッコリー、ナスなど
・乳製品:アーモンドミルク、バター、カマンベールチーズなど
・果物:バナナ、いちご、パイナップルなど
高FODMAP食品の中でも、グルテンを含む小麦や加工肉、スパイスなどの刺激物に関しては、なるべく控えた方が良い食品として想像しやすい内容なのではないでしょうか。
しかし、ゴボウや納豆、ヨーグルトなどはどうでしょう。
高FOMAP食品は身体に悪い?ずっと控えるべき?
実は、高FODMAP食品の中には、納豆やヨーグルトなどのように、一般的には腸にいいとされている健康食品が多く含まれています。
したがって、高FODMAP食品だから全てが身体に悪い、ということはありません。
しかし、腸の異常な過敏反応が起きてしまっている過敏性腸症候群の方にとっては、本来なら腸の働きをサポートしてくれるはずの食品が過敏反応を助長させ、症状を悪化させてしまうことがあるのです。
FODMAPを意識する上で大切なことは、個々の体質や特定の病態によっては、摂取に注意が必要な食品があるということを理解すること。
食物アレルギーとは異なる治療になるため、専門医に相談のうえ、特定の食品を完全に避けるのではなく、医師の指導に沿った制限や摂取の仕方を続けていくことが重要です。
食物繊維はNG?
例えば、ゴボウは不溶性食物繊維が豊富で、一般的には腸内で善玉菌のエサとなってくれる発酵性の高い食品。しかし、過敏性腸症候群の場合は不溶性食物繊維が分解・発酵される際に生じる代謝産物やガスなどによって大腸が過剰に刺激されることも。
同じ食物繊維でも、水に溶けて柔らかくなる性質の水溶性食物繊維を選ぶことで、大腸への刺激を軽減し、症状悪化のリスクを減らすことができます。
菌の専門家 下川先生の実体験
過敏性腸症候群を治した方法とは
仕事が多忙を極めたタイミングから約2年間もの間、下痢型の過敏性腸症候群である
IBS-Dに苦しみました。
そんな先生が、どのようにしてそのつらい症状を克服したのかを、ご紹介しましょう。
下川先生の過敏性腸症候群 対策|①プロバイオティクス
プロバイオティクスとは、摂取することで腸内環境のバランスを整える働きをする善玉菌のこと。
下川先生と好相性のプロバイオティクスは、酵母菌の一種であるブラウディ菌でした。正式名称は「Saccharomyces boulardii(サッカロマイセス ブラウディ)」。
ライチとマンゴスチンの果実の皮から分離される天然の熱帯酵母です。
サプリメントとして手軽に購入することもできますので、気になる方はぜひチェックしてみてくださいね。
下川先生の過敏性腸症候群 対策|②食事
自分の体質を見直した際に、小麦・乳製品・カフェインを制限したことで、先生はかなりの違いを体感するほど症状が回復したそう。
グルテンフリーやカフェインレスなどの言葉があることで、あたかもそれらが身体に良くないというイメージがつきがちですが、体質的に問題がなければ必ずしも「悪」と決めつける必要はないのです。
しかし、これらを摂取することによって不調が生じる方は、控えてみると嬉しい体調の変化を感じることができるかもしれません。
下川先生のおすすめ低FODMAP食品|地中海食
イタリア、ギリシャなどの地中海沿岸の国々の人が食べている伝統料理である地中海食は、オリーブオイルを使用した、野菜や魚介を中心とした料理です。
地中海食を選ぶことで、飽和脂肪酸を多く含む肉や乳製品の摂取を少なくすることができるため、過敏性腸症候群の方も安心して楽しめる食事。
ニンニクが気になる方は、身の部分ではなく香りをうつしたオイルの風味を楽しんでくださいね。
下川先生のおすすめ低FODMAP食品|グルテンフリースパゲッティ
数あるグルテンフリースパゲッティの中でも、下川先生が「これは!」と絶賛するのが、アルチェネロの有機グルテンフリー・スパゲッティ。
イタリア産有機とうもろこしと有機米でつくった小麦不使用のスパゲッティは、しっかりとした麺の歯応えもありつつ、とうもろこしのほんのりとした甘みが感じられます。麺が持つ風味の主張が控えめな分、どんなソースにも合わせやすく、おすすめです。
下川先生の過敏性腸症候群 対策|③腸脳相関
腸と脳が互いに影響しあう関係にあることを指す、腸脳相関。
この考えを応用し、食事によって腸内環境の改善を目指すだけでなく、メンタルに働きかけることで、腸の症状改善に向けてアプローチするものです。
呼吸でストレス管理
忙しい毎日の中で、つい呼吸が浅くなっていませんか?
1日の中で、例えば寝る前などに深い呼吸を心がけながら穏やかな時間を過ごすことも、メンタルを維持するのに効果的と言えます。
下川先生が取り入れているのは、漸進的筋弛緩法。
腹式呼吸に合わせて身体の力を入れたり脱力したりすることで、全身のリラクゼーション効果が期待されています。
サウナや運動
サウナや運動で適度な汗をかくことは、心身ともに良いリフレッシュになります。
運動やサウナはストレスホルモンの減少や多幸感を得られるエンドルフィンというホルモンの分泌を促進し、リラックス感をもたらすと考えられています。
エアコンの効いた部屋で多くの時間を過ごし、運動不足になりやすい現代人には
うってつけのリラックス法ではないでしょうか。
過敏性腸症候群の対策は、まず知ることから
自分も過敏性腸症候群かもしれないと思う方も、自分には関係のない病気だと感じる方も、まずは過敏性腸症候群について知ることが大切です。
そして、自分の身体にしっかりと目を向け、時には専門医に相談しながら適切な方法で自分の身体をいたわってあげてくださいね。
対策法は、個々の症状や体質によって十人十色。この記事が、症状のあるなしにかかわらず、みなさまが健康意識を高め、適切なケアをするための一助となることを願っています。
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【前編】それ過敏性腸症候群(IBS)かも!? 菌の専門家が徹底解説
【後編】 過敏性腸症候群(IBS)におすすめの食事「低FODMAP食」とは?
【参考文献】
・日本消化器病学会ガイドラインをもとに過敏性腸症候群の種類や治療法の整理
出典:https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/ibs.html
・低FODMAP
Black CJ, Staudacher HM, Ford AC. Efficacy of a low FODMAP diet in irritable bowel syndrome: systematic review and network meta-analysis. Gut. 2022 Jun;71(6):1117-1126. doi: 10.1136/gutjnl-2021-325214. Epub 2021 Aug 10.
・プロバイオティクス ブラウディ
McFarland LV, Karakan T, Karatas A. Strain-specific and outcome-specific efficacy of probiotics for the treatment of irritable bowel syndrome: A systematic review and meta-analysis. EClinicalMedicine. 2021 Oct 18;41:101154. doi: 10.1016/j.eclinm.2021.101154.
・グルテンフリー
Paduano D, Cingolani A, Tanda E, Usai P. Effect of Three Diets (Low-FODMAP, Gluten-free and Balanced) on Irritable Bowel Syndrome Symptoms and Health-Related Quality of Life. Nutrients. 2019 Jul 11;11(7):1566. doi: 10.3390/nu11071566.
・腸脳相関
過敏性腸症候群における脳腸相関と腸内細菌叢 (Jpn J Psychosom Med 62:45-49, 2022)
・漸進的筋弛緩法
Shah K, Ramos-Garcia M, Bhavsar J, Lehrer P. Mind-body treatments of irritable bowel syndrome symptoms: An updated meta-analysis. Behav Res Ther. 2020 May;128:103462. doi: 10.1016/j.brat.2019.103462. Epub 2019 Nov 12.
記事の監修
岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。
INSTAGRAM : @yutaka411985 , @yourkins_official
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