肥満の原因は「食べる時間」!?
新時代のダイエット法 「時間栄養学」とは
しかし、何を食べるかには気を付けていても、意外と見落とされがちな、いつ食べるか。
実は最新の研究によって、いつ食べるかという食事のタイミングこそが、ダイエットの成果に大きく影響する可能性が高いことが示唆されています。
この記事では、栄養学の歴史から最新の栄養学に迫り、無理なく効率的にダイエットを進めるためのポイントをご紹介します。
栄養学の歴史
まずは栄養学の起源から現在に至るまで、その歴史を簡単に学んで行きましょう。
栄養学の始まりと発展
栄養学とは、食事や食品、その栄養素がどのように生物の中で利用されたり影響しているかを研究する、栄養に関する学問とされています。
栄養学は、初めてビタミンが発見された20世紀初頭から始まりました。栄養学の歴史は、さほど昔のことではないことが分かりますね。
そこからタンパク質、炭水化物や脂肪などの役割・詳細が判明し、20世紀の中期になってようやく栄養の推奨量が定められました。
さらに20世紀後半になると、糖尿病や心臓病などの疾患と栄養学の関係性が研究され始めます。
21世紀の栄養学「分子栄養学」
21世紀になると、足りない栄養素を摂るというそれまでの栄養学の枠を超えて、栄養を分子レベルで解析して応用した分子栄養学に移行していきます。
分子栄養学とは
分子栄養学は、食物が私たちの体にどのように影響を与え、健康に対してどのような役割を果たすかを分子レベルで解析・追求する学問です。
具体的には、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を摂取した際、体内でどのような反応を経て、どの分子や代謝産物に変化するかを解明します。これによって、栄養素が健康や病気にどのように関与しているかといった、個々の栄養素が生体内で果たす役割を明らかにすることを目的とします。
この考えを応用し、血液検査から読み取った栄養素の過不足データに基づいて必要な栄養素と量を解析し、食事やサプリメントによる栄養補助のアプローチを行いながら病態を改善する治療が行われることもあります。
アメリカでもOrtho(整合・整える)・molecular(分子) ・Nutrition(栄養)の単語を組み合わせたOrthomolecular Nutritionと称され、注目されている学問です。
2023年の栄養学「精密栄養学」
一般的な栄養学からブラッシュアップされ、よりパーソナライズ化された分子栄養学を経て、精密栄養学の時代が到来しました。
精密栄養学とは
精密栄養学は、個々の生活環境、生活スタイル、腸内環境をはじめとした健康状態などを考慮し、それに合わせた精密な栄養のアプローチを提供する学問を指します。
このアプローチは、血液検査や他の生体マーカーも使用し、個人の生理学的な特徴や遺伝子、生活環境なども考慮して栄養アドバイスがなされます。
また、近年ではApple Watchをはじめとした、手首や腕に装着するウェアラブルデバイスや人工知能(AI)を活用した精密なデータ収集や分析を行うことで、より効果的な栄養アドバイスが可能になりました。
新時代の栄養学「時間栄養学」
個々のニーズに合わせ、より一層カスタマイズされた総合的アプローチに発展した精密栄養学。
この「何をどのように」食べるかという考え方に、「いつ」食べるかという体内時計の概念を加えたものが時間栄養学です。
時間栄養学の概念
例えば、これまでは、食品のカロリーや糖質をふまえて「この食材(何)をこれだけの量(どのように)食べましょう」もしくは「控えましょう」という概念のもとで栄養指導などが行われてきました。
時間栄養学においては、それに加えて「いつ」食べるかという、食べるタイミングがとても重要になってきます。
同じカロリー・糖質の食品を食べても、食べるタイミングの違いによってダイエットの成果に差が生じる可能性が高いことが最新の研究によって判明したのです。
そして、ダイエットに効果的な食事のタイミングは、サーカディアンリズムに合わせたサイクルであることが分かりました。
サーカディアンリズム(体内時計)とは
サーカディアンリズムとは、私たちの中に備わっている生理学的な体内時計のことを指し、これは24時間サイクルで変動するものとされています。
その変動の中で生じた体内時計のズレは、主に太陽の光による自然の明暗サイクルによって調整されています。
一般的に、太陽が昇って明るくなると、体温が上がって代謝が活発になり、太陽が沈むと体温や代謝が下がって眠くなってくるとされています。
このように、太陽の光は私たちの活動力や食欲、ホルモンにも影響すると考えられているのです。
時間栄養学とサーカディアンリズム
近年、不規則な睡眠や夜中の暴食など、生活リズムの乱れによる健康へのネガティブな影響が指摘されています。
サーカディアンリズムを考慮すると、太陽が沈んで代謝が落ちているはずの夜中に起きて食べ物を食べるなど、健康にもダイエットにも好ましくないことは明らかですね。
そうした中で、サーカディアンリズムと連動した食事のタイミングを心がける時間栄養学に大きな期待が寄せられています。
時間栄養学を応用したダイエットの実践法
昼食を食べるタイミング
ダイエットに効果的なのは早めランチor遅めランチ?
お昼ご飯を食べるタイミングが早い場合と遅い場合とでは、どちらがダイエットに効果的なのでしょうか。
スペインの研究チームは、肥満症の患者420人を対象にした減量プログラムを実施。
その際、昼食を早めの時間に摂るグループと遅めの時間に摂るグループに分け、20週間の検証を行いました。
その結果、同じ食事を同じ量で食べていたにも関わらず、早めの時間に食べていたグループの方が体重の減少率が高いことが分かりました。
つまり、早めランチの方がダイエットに効果的である可能性が高いことが判明したのです。
昼食の時間が遅くなれば、それだけその後の食事も後ろ倒しになり、生活リズムが夜型になりがち。
食事を摂る時間をなるべく早めに心がけ、代謝がいいうちに済ませることをおすすめします。
ダイエット中、間食(おやつ)は食べるべき!?
昼食を早めに摂ると、必然的に夕食までの時間が空くため、つい間食を食べてしまってダイエットに悪影響なのでは?という懸念を持つ方もいらっしゃるでしょう。
ダイエットにおいて、間食(おやつ)は、余分なカロリーを摂取してしまうものとして長らく好ましくない位置付けがされていました。
しかし近年の研究で、むしろ適度な間食(おやつ)を食べた方が急激な血糖値の上昇を抑えることができ、食欲を安定させることで夕食の食べ過ぎを防ぐ効果が期待できることが判明しました。
なぜ急激に血糖値が上がると太りやすくなるのか
糖質の高い食事や空腹のストレスによって急激に血糖値が上がると、私たちの身体は血糖値を下げようとして脾臓からインスリンというホルモンを分泌します。このホルモンは、血液中の糖分を脂肪に変換し、溜め込む働きがあります。
血糖値は、穏やかに上昇する分にはさほど問題ではないものの、急激な上昇はインスリンの過剰分泌を引き起こし、身体に余分な脂肪が溜まりやすくなってしまうのです。
こうしたことから、急激な血糖値の上昇を防ぐためにも、適度な間食はダイエットに効果的と言えるでしょう。
ダイエット中におすすめの間食(おやつ)
ダイエット中の間食は、なんでも食べて良い、ということではありません。
前述した通り、急激な血糖値の上昇を招く高糖質なものや高脂質なものは避けた方が良いでしょう。
ダイエット中の間食としておすすめの食品をご紹介します。
・ナッツ類
無塩タイプのものがベター。
ダイエット中に不足しがちなビタミン類、食物繊維が豊富。
食べ過ぎに注意し、1日20粒以内にとどめましょう。
・バナナ
満腹感を得やすく腹持ちもいい。
浮腫を防いでくれるカリウムや食物繊維が豊富。
・チーズ
タンパク質やカルシウム、ビタミンが豊富。
カッテージチーズ・モッツァレラチーズ・カマンベールチーズがおすすめ。
・ヨーグルト
腸内環境を整えてくれる善玉菌が豊富。
加糖タイプではなく無糖(プレーン)タイプを選びましょう。
たんぱく質を摂るタイミング
たんぱく質は、筋肉をはじめ骨や髪、爪といった私たちの身体を形成する上で欠かせない栄養素。
また、たんぱく質を摂取することで、基礎代謝が上がって脂肪を燃焼しやすくなるメリットもあります。
筋肉を落とさずにダイエットを続けるためにも、たんぱく質の摂取はとても重要なのです。
たんぱく質においても、体内時計を考慮したおすすめのタイミングは、朝。
早稲田大学の研究で、たんぱく質を摂取することによる筋肉量増加の効果は、たんぱく質の量だけでなくタイミングも影響することが分かりました。
さらに、たんぱく質を朝食時に摂取した場合は夕食時に摂取した場合よりも筋肉量が増加しやすいという研究報告もあります。
たんぱく質を摂取することによる効果的な恩恵を受けるためにも、なるべく午前中に摂るよう心がけてみてはいかがでしょうか。
ダイエットにおすすめ!高タンパク質・低脂質の食べ物
・牛肉の赤身
・鶏胸肉(皮なし)
・鶏ささみ肉
・豚肉の赤身
・豚肩
<魚介類>
・あじ
・いわし
・マグロの赤身
・さけ
・たら
<豆類>
・納豆
・豆腐
・豆乳
ダイエット中の朝食は抜くべき?
ダイエット中は、ついついカロリー制限を考えて、朝食を抜きがちです。
しかし、ダイエット中に朝食を抜くことは、実は逆効果であることが分かっています。
私たちの身体は寝ている間、起きている時よりも体温が下がっていますが、朝食を食べることによって睡眠中に低下していた体温を上げて代謝を促進する仕組みになっています。
しかし、朝食を抜くことで体温が上がらないと、エネルギー代謝の低いまま過ごすことになり、集中力やパフォーマンスの低下だけでなくダイエットの効果が低下する可能性も。
ダイエット中こそ、朝食はしっかりと摂るよう意識すると良いでしょう。
糖質&食物繊維を摂るタイミング
糖質を摂取する際にイヌリンという水溶性食物繊維を一緒に摂ることによって、血糖値の上昇を抑える効果があることが分かっています。
イヌリンはキク科の植物によって作られる多糖類の一種で、キクイモやゴボウ、ニラなどに多く含まれています。
人の消化器では分解されず、小腸を通過して大腸まで達して代謝されることから、糖質ではなく食物繊維として扱われています。
この特性により、イヌリンは血糖値の上昇を抑える効果があり、また腸内で善玉菌のエサとなって善玉菌を増やし、短鎖脂肪酸という物質を産生することにより腸内環境を改善すると考えられているのです。
さらに、このイヌリンも同じ量を摂取した場合、夜よりも朝の方が血糖値の上昇を抑える効果が高いことが研究によって明らかにされています。
イヌリンと血糖値の研究
65歳以上の高齢者を対象に、朝食前または夕食前に5 gのイヌリンを含んだ菊芋パウダーを摂取し、その後の血糖値変動と腸内細菌叢への影響を調査しました。
その結果、朝食前と夕食前の摂取いずれも血糖値の減少が見られましたが、特に朝食前の摂取では血糖値の減少がより顕著であったことが報告されました。
さらに、朝食前に摂取した菊芋パウダー(イヌリン)は、夕食前に摂取した場合と比較して腸内細菌叢にも大きな変化をもたらすことが観察されたのです。
夜の緑茶1杯で痩せ体質に!?カテキンのチカラ
緑茶に含まれるポリフェノールの一種であるカテキンには、糖の吸収スピードを穏やかにすることによって血糖値の上昇を緩やかにする働きがあると考えられています。
このカテキンの働きによって、糖質の摂り過ぎが原因で引き起こされる肥満の予防にも繋がると期待されているのです。
夕食の際に緑茶を飲むことで、夕食後の血糖値上昇を抑える習慣はいかがでしょうか。
ただし、緑茶を飲み過ぎることによるカフェインの過剰摂取によって、睡眠の質が悪くなるなどの影響が報告されているため、遅い時間に飲み過ぎないよう注意が必要です。
緑茶は一日当たり2L以下にとどめ、夕食をなるべく早めの時間に摂りながら飲むと良いでしょう。
時間栄養学を応用した最先端のダイエット
サーカディアンリズムと連動させた12時間ファスティング
太陽が昇っている間に食事を済ませ、太陽が沈んだ後は食べない(絶食)という12時間ファスティングは、サーカディアンリズム(体内時計)に沿った理想的な食習慣と言えます。
例えば、朝7時に朝食を食べたら、夕方の7時までには夕飯を済ませる。それ以降は、翌朝の7時まで断食をするというものです。
朝食以降の12時間であれば、昼食の時間に制限はないため、初めてファスティングをする人でも続けやすいのではないでしょうか。
時間栄養学を味方につけてダイエットを効率よく
「時間栄養学」の文字だけを見ると、難しそうに感じるかもしれませんが、大切なのは体内時計を考慮した無理のない食生活を続けるということ。
我慢して朝食やおやつを抜いて空腹に耐えるよりも、心身ともにストレスなく穏やかに続けられる習慣と言えるでしょう。
この、新常識とも言える最新の栄養学を味方につけて、効率よくダイエットに励んでみてくださいね。
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【前編】 新時代のダイエット法 「時間栄養学」を徹底解説
【後編】 夜の緑茶1杯で痩せ体質!?時間栄養を徹底解説します
【参考文献】
・分子栄養学
・精密栄養学
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758104111/8.html#:~:text=Precision%20nutrition%E3%81%AF%EF
・時間栄養学
https://www.naro.go.jp/laboratory/nfri/introduction/chart/0203/chrononutrition.html
・スペイン論文 地中海食と早めのランチ
Garaulet M, et al. Timing of foodintake predicts weight losseffectiveness. Int J Obes (Lond).2013 Apr;37(4):604-11. doi:10.1038/ijo.2012.229.
・早稲田大学の研究 朝にタンパク質を摂る
Aoyama S, et al. Distribution ofdietary protein intake in daily mealsinfluences skeletal musclehypertrophy via the muscle clock.Cell Rep. 2021 Jul 6;36(1):109336.doi: 10.1016/j.celrep.2021.109336.
・朝食について
Kiriyama K, et al. Skipping breakfastregimen induces an increase in bodyweight and a decrease in muscleweight with a shifted circadian rhythmin peripheral tissues of mice. Br JNutr. 2022 Dec 28;128(12):2308-2319.doi: 10.1017/S0007114522000356.
・食物繊維と血糖値
金 鉉基, 柴田 重信. 時間生物学を利用した機能性食品開発~イヌリンのヒト試験を中心に~.生物工学会誌.2019;97(11):657-660.
・カテキンと血糖値
Takahashi M, et al. Effects ofTiming of Acute and ConsecutiveCatechin Ingestion on PostprandialGlucose Metabolism in Mice andHumans. Nutrients. 2020 Feb21;12(2):565. doi:10.3390/nu12020565.
・夕食の血糖値と間食
今井 佐恵子 et al. 食べ方と食べる時間が血糖変動に影響を与える.化学と生物. 2018;56(7):483-489. doi:10.1271/kagakutoseibutsu.56.483.
記事の監修
岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。
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