『台所漢方』漢方栄養士・古尾谷奈美さんインタビューVol.2 女性の不調編
人の身体は、環境や心的なゆらぎに敏感に反応し、様々な不調として現れます。そんな時に知っていると心強い、漢方のいろは。
身体の仕組みと、体質や季節を少しだけ意識した養生を知ることで、健やかに過ごすヒントが見つかるかも。
前回より東京・中目黒の漢方専門店「台所漢方」の漢方栄養士、古尾谷奈美さんにお話を伺うシリーズ、後半のテーマは”女性ならではの不調”について。
生理痛、月経不順、PMS、更年期…年代を問わず女性につきまとう問題ですが、実は漢方がとても得意とする分野です。現時点では特に悩みがないという方も、今のうちに養生を。
前半記事はこちら
→漢方から学ぶホリスティックヘルスケア 心身の健康と腸の関係編
漢方に診る、女性の不調
私たちが営む漢方薬局『台所漢方』にいらっしゃる方のお悩みで、一番多いのが”女性特有の不調”です。
女性の不調を診ていくうえで大切なことは、漢方の考え方で身体を構成する要素となる”気・血・水”のうち、身体に流れる血液やその働きである”血”です。注意するのは、血が不足している”血虚(けっきょ)”の状態、または血がドロドロな”瘀血(おけつ)”の状態などですね。
気・血・水の“血”を整える
血を増やすというのは現代医学でもそんなに簡単なことではなく、たとえばサプリや食品で鉄分を補ってもなかなか増えずらいものです。漢方の捉え方で診ていくと、気のトラブルや冷えなど他の不調とともに症状が現れることが多いので、やはり身体全体で整えていく必要があるんですよね。女性特有の不調で漢方の門を叩く方が多い理由の一つかなと感じます。
西洋医学と東洋医学でも”血を増やす”ことの考え方が少し異なっていて、西洋医学では赤血球の数値によって診断するのに対して、東洋医学ではたとえ数値として正常であっても、うまく働いていなければ”血虚”と診ます。良質な血をつくる=血を綺麗にして増やすということを大切にします。
瘀血は“気”のトラブルと併発しやすい
血の巡りが滞る”瘀血”は、気・血・水のうち”気”のトラブルと併発しやすいという特徴があります。
”気”は目に見えないエネルギーであったり、血や水を作り出し巡らせるはたらきをもちます。そのため、気が不足した”気虚(ききょ)”の状態や、気が滞る”気滞(きたい)”の状態になると、血の巡りが悪くなり、瘀血を引き起こしている場合があります。
身体の臓器を”肝・心・脾・肺・腎”の5つに分類する五臓で診ると、“肝”の養生も大切です。
肝は、血の貯蔵や循環にかかわる働きをするので、肝が弱まっている状態でいくら血を補うものを摂っても、血虚や瘀血の状態を改善できなくなってしまいます。
肝は自律神経との関係が深いので、ストレスや心の乱れによっての影響も生じます。イライラとした感情が現れやすいので、肝が不調な場合は、PMSや更年期の症状を感じやすいかもしれません。
冷えを改善する
女性特有の不調がある場合、血の状態と一緒に診ていくのは”冷え”です。
瘀血で血がドロドロの状態だと、血流が悪くなるので身体が冷えます。冷えは痛みを引き起こすため月経時に痛みが起こりやすかったり、経血にどろっとした血の塊がでやすいのが特徴です。
私が思う漢方の一番の良いところは、新陳代謝を高められることにあると思っています。新陳代謝を良くすることで細胞が生き生きと元気になり、お悩み以外の症状まで改善していく。
百害あって一理なしと言われる”冷え”を改善するための一つのサポートとして漢方を取り入れることは、とても理に適っているのです。
症状別に診る女性特有の不調
”血を綺麗にして増やし、身体を温める”という大前提をもとに、代表的な女性特有のお悩みで起こりやすい症状や養生についてご紹介します。
生理痛
先ほども少し触れましたが、生理痛の養生には冷えの改善が欠かせません。
血がドロドロの状態になると血流が悪くなることで身体が冷え、痛みを感じやすくなります。経血でもドロっとした塊が出るので分かりやすいかと思います。まずは基本の基本、身体を温めて血を綺麗にすることを意識しましょう。
PMS
PMSは、気が不足する”気虚”や、気が滞る”気滞”によって起こりやすいです。
肝の不調の影響を受けやすいので、胃腸の不調からくるクヨクヨした感情とは異なり、イライラしたり、動物的なむき出しの感情として症状がでやすいです。肝の養生を意識しましょう。
身体を動かす、酸っぱいものやハーブなどの香りの良いものを食事に摂り入れるのもおすすめです。
不妊
腎の不調が関わっていることも多いお悩みです。
腎は生命のエネルギー源のような働きをもっているため、妊娠との関わりが深いと漢方では考えられています。腎に不調があると、のぼせやほてりやすいという症状やあったり、身体の炎症が強いので、身体は温めながらも不要な熱をとっていくことも必要になります。
黒豆やひじきなど黒い食材は腎の養生に良いとされていて、身体をうるおしながら、血も補ってくれますよ。
更年期障害
更年期を迎え女性ホルモンの分泌がガクンと減ることによって、その人の体質によって現れやすい症状がより顕著になる傾向にあります。
たとえば肝の不調や気の滞りがある人は、イライラして自分の感情が抑えられないというお悩みが目立ったり、腎の不調がある人はほてりやホットフラッシュの症状が酷かったり。若い頃に無理をしたり乱れた食生活をしていると、女性ホルモンが急激に減ってしまい、更年期症状が酷く現れてしまうのです。
そう聞くと、女性ホルモンを増やす方法はないの?と思われるかもしれませんが、年齢を重ねるとともに緩やかに減っていくことが理想的です。そのためには、今気になっている不調をそのままにせず、日々少しずつ養生していくことが大切です。
女性の不調を整える薬膳×菌ケアレシピ
古尾谷先生のおすすめする、薬膳レシピ。食事バランスに気を遣うことは、結果的に腸内環境を整えるサポートにもなり「菌ケア」としても重要です。
今回ご紹介したいのは” 鮭とイクラのみぞれ鍋”。身体を温め、良質な血を作る食材と調理法で作ります。
菌ケア的にあまり良くないとされる赤身肉などは使わず、鮭からタンパク質を補い、大根から水溶性食物繊維も摂れるのがポイントです。
| 鮭とイクラのみぞれ鍋
材料
生鮭、イクラ、だし汁、大根、ほうれん草、ワケギ、絹ごし豆腐、酒・おろし生姜、レモン汁、塩
- 大根は皮付きで、すりおろしておきます。
- だし汁と大根おろしを入れ火にかけ、一口大に切った鮭、豆腐、茹でたほうれん草を入れて中火でゆっくり煮ます。
- 火が通ったら、酒、おろし生姜、レモン汁を加え、塩少々で味を整えてひと煮立ちさせます。
- 火を止め、イクラとワケギを散らし入れて完成です。
忙しい現代女性こそ、気軽に身体のことをきける”かかりつけ”をもとう
仕事や子育てで忙しい30代、40代の女性は特に、食生活が乱れやすかったりストレスを溜め込みやすかったり、バランスが崩れやすい年代です。
20代で無理をしたことが30代の不調となり、30代で無理をしたことが40代、50代になった時に不調として現れます。女性の不調は、年代や体質によって様々な症状が絡み合い、複合的なアプローチが必要な場合も多いのです。
身体全体を整えて女性ホルモンとうまく付き合っていく必要がありますね。年齢や季節の変化に合わせた養生を最適に取り入れるためにも、いつでも相談できるかかりつけ医のような存在をもっておくと安心です。
女性の不調は体内環境をしっかり意識することから。
KINS LABで日頃お伝えしている「菌ケア」はもちろん、必要に応じて漢方の専門家にも頼りながら、自分に合ったセルフケアをしていきましょう。
取材先
漢方専門店「台所漢方」の漢方栄養士、古尾谷 奈美 (ふるおや なみ)
総合漢方研究会、漢方実践研究会にて漢方を学び、母の下にて食療、食養、薬草を学び、漢方に特化した栄養士、「漢方栄養士」として漢方相談も行っている。薬草植物学(本草学)を研究しながら、体にやさしく安全でナチュラルな成分でカラダをきれいにする“漢方ライフ”を提案。病気になりにくいカラダ作りを重視した漢方カウンセリングを行っています。
記事の監修
岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。
INSTAGRAM : @yutaka411985 , @yourkins_official
X : @yutaka_shimo