妊娠初期のイライラの原因と対策、赤ちゃんへの影響を助産師が解説!
SNSにはキラキラした妊婦さんばかりが目に入ってくる。こんなにしんどいのは自分だけ?と感じている妊娠初期の妊婦さんも少なくないと思います。
今回は、妊娠初期のイライラなど心の不調の原因や対策、そして気になる赤ちゃんへの影響について現役助産師が解説していきます。ちょっとした安心材料になると嬉しいです。
気になる妊娠初期のイライラの原因は?
妊娠初期は、心身共に色々な変化が起こるため、精神的にも不安定になりやすい時期です。
ここからは、イライラの原因を探っていきましょう!
妊娠に伴うホルモンの変化
女性の一生と切っても切り離せないのが「ホルモン」による影響です。
女性の月経周期や妊娠にも関係するプロゲステロン。
このホルモンは、妊娠を継続させるために必要なホルモンですが、女性にとっては嬉しくない症状を起こすホルモンでもあります。
浮腫や頭痛や肩こりや便秘。そして気持ちが不安定になることも。月経前にこのような症状が出る方も、同じく「プロゲステロン」の仕業です。
赤ちゃんの発育が心配
妊娠初期はまだ体型の変化がなく、胎動を感じることもできないため、胎児の成長が気になる時期。
お腹の中で赤ちゃんが動いているのを感じることができるようになるまでは、待ち遠しい妊婦健診。また、ちょっとしたお腹の違和感やおりものの変化に敏感になる方も少なくありません。
妊娠初期は、お母さんの行動などが赤ちゃんに大きく影響することはほとんどありません。不安や心配もあると思いますが、お腹の赤ちゃんのことを信じて過ごしましょう。そして本当に心配なことがある場合は、我慢せずすぐにかかりつけ医に相談を。
妊娠の経過が順調か不安
妊娠の初期は、妊婦健診の頻度が少ない時期です。子宮の中に胎児が確認できたら、健診は月に一度。不安が多い妊婦さんからすると、4週間という期間は長すぎますよね。
しかし、実はこれでも日本は妊婦健診の回数や超音波でのチェックの頻度が多い国です。
妊娠初期は「腹痛」と「出血」に注意して、それ以外はいつも通りの生活で大丈夫です。もちろん、気になることがある時には、かかりつけ医に相談しましょう。
体重増えすぎ?少なすぎ?
多くの妊婦さんが気にするのが「体重増加」に関すること。
つわりで食べられない方は、「体重が増えていなくて心配」反対に、食べづわりの方は「こんなに増えてもいいの?」と、体重に関する心配はつきません。
体重増加に関して、大切なポイントは自分自身が健やかに過ごせているかどうかというところ。
『元気に活動できて、食事を美味しく食べることができて、気持ちよく排泄できる』のが理想です。数字も気になるところだと思いますが、自分の身体の声を聞くことも忘れずに。
妊娠中の食事のストレス
妊娠すると、食べた方がいいもの、控えたほうがいいものもあるのが事実です。それまで食べていたものが食べられなくなったりして、毎日毎回の食事がストレスや悩みの種になることも。
中でも、控えた方がいい食べ物に関する質問が特に多い印象があります。妊婦さんたちから「これを食べてしまったのですが、大丈夫ですか?」「これは食べない方がいいですか?」と質問を受けることも多々。
このような質問をいただいた時には、「食べて後悔するもの、食べて良いか迷うものは食べないという選択をしましょう」とお伝えしています。
異常妊娠でないか不安
心身共に敏感な時は、色々なことをネガティブに考えてしまうもの。妊娠中に母体や赤ちゃんに異常が起こらないか不安になったりすることもあるでしょう。
不安なときや、ちょっとした身体の変化が気になったとき、ネガティブワードでネット検索している妊婦さんも少なくないはず。気持ちが沈んでいるときや不安なときは、色々調べない!に限ります。
ヒットした記事を読んで、更に不安が強くなる可能性も。本当に心配な点はきちんとかかりつけ医や助産師に相談し、あまり心配し過ぎないようにしましょう。
妊娠初期のストレス・イライラは赤ちゃんに影響する?
赤ちゃんはお母さんの子宮の中で成長します。お母さんが食べたものが、赤ちゃんの成長発達につながることは多くの方が知っていること。
では、心の状態は影響するのでしょうか?
人のストレスには、「コルチゾール」というホルモンが影響しています。
これが、妊娠中にたくさん分泌されると胎児にも影響する可能性があると言われています。
どんな影響が起こる可能性があるか解説していきましょう。
生活習慣病の原因になる
妊娠中の栄養不足や精神的なストレスが、後のお子さんの生活習慣病の原因になると考えられています。
胎児期のストレスが、成長後の「食塩感受性高血圧」の発症原因となっていることが突き止められたそう。(※1)
また、栄養不足やストレスによる影響は、胎児期だけでなく乳児期にも影響を及ぼすことが分かってきています。(※2)
発達障害のリスクが上がる可能性
慢性的な妊娠期のストレスは、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌を増加させます。成長発達が著しい胎児期にコルチゾールを多く浴びると、細胞分裂が緩やかになったり、発達に異常が出る可能性も示唆されています。
結果として、自閉症やADHDなどの発達障害のリスクが上がるとも考えられているようです。(※3)
もちろん要因は他にも色々考えられ断言できることではありませんが、ご自身の気分のためにもストレスをできるだけなくしていきたいですね。
ストレス反応に影響する可能性
妊娠期にお母さんが過度のストレス刺激を受けると、成長後のお子さんのストレス反応に異常が生じるという臨床報告があります。(※4)
胎児期に過剰なストレスを受けると、脳と脊髄のある中枢神経の発達や成長後の情動性の異常が起こる可能性があるとされていることからです。マウスによる臨床実験でも、成長後の情動行動の低下や不安感受性の増強、そしてストレス適応形成の障害が認められたという報告も。
心配しすぎず、できるだけストレスのない生活を
これらの影響はもちろんストレスだけで起きるものとは言い切れず、色々な要因が考えられます。
意識するあまり逆にストレスになるほど怖がり過ぎる必要はありませんが、リスクを知ってできる限りストレスのないマタニティライフを心がけましょう。
9つの妊娠初期のイライラ・ストレス対策
ストレスは絶対的に悪いものではありません。しかし妊娠中は特に、過度なストレスは避けて上手に付き合っていきたいところですよね。
ここからは、対策を9つご紹介していきます。
人とコミュニケーションをとる機会をつくろう
妊娠全期を通して、人との関係が良いことがストレスの緩和につながるという研究結果が見つかりました。特に女性は、話すことがストレス発散になる方も多いのではないかと思います。
旦那さんに何でも話せますか?何でも気軽に話せる人はいますか?
これから残りの妊娠期間を過ごす上でも、育児をしていく上でも大切です。妊娠中で休職などされる場合も、気軽に話せる友人や家族との関係は大事にしたいですね。
職場の理解を得よう
妊娠経過や赤ちゃんの発育に不安を感じやすい妊娠初期。気になった時に休めたり、受診できる職場環境が整っていると安心ですよね。職場の上司や同僚に、自分の状況や体調などを知ってもらえていると良いかもしれません。
また、体調が悪く仕事が辛い時には、「母性健康管理指導事項連絡カード」というものがあります。(※6)
かかりつけ医に作成してもらうことができ、仕事内容や勤務時間、休憩時間などの変更をしてもらうことができます。
サポート体制を整えておこう
心身共に不安定だと、ネガティブな感情や状況を想像してしまうもの。困った時に安心して話すことができたり、頼ることができる人がいると安心です。
家族や身内に頼ることができなくても、「産前産後サポート事業」というものがあります。(※7)
内容としては、訪問や電話相談、メールによる相談、デイサービス、宿泊などでケアや指導を受けることができるものまで様々。
都道府県や自治体によって内容が違うことや、事前に申請が必要なものもあるので、気になる方はかかりつけ医や市町村の窓口で聞いてみて下さい。
【東京都内の一例】
世田谷区:産後ケア事業 産後のお母さんを応援します | 世田谷区ホームページ
また、東京を中心として「産後ドゥーラ」という方々もいます。産前産後のママたちのニーズに合わせてケアや指導を受けることができるシステムです。
→ドゥーラ協会
里帰りの予定がない方や周りに頼れる人がいない方は、いざという時のために、知っておくことが安心材料になることもあるでしょう。
太陽光を浴びよう
ここからは、妊娠中のみならず、ストレスと仲良くなるための過ごし方です。ストレス緩和には「セロトニン」という別名幸せホルモンが影響します。セロトニンは網膜に光を取り入れることで分泌され、特に朝に取り入れるのが有効!(※8)
妊娠初期の体調不良などで朝がつらい方もいらっしゃると思いますが、目覚めたらカーテンを開けるということを意識すると良さそうですね。
呼吸を意識しよう
人は不安が強い時や緊張が強い時、呼吸が浅くなりやすくなると言われています。呼吸を整えることで、ストレスが緩和される効果が期待できます。(※9)安定した複式呼吸を繰り返すと、副交感神経が優位になりやすくなります。
深い呼吸は、お産の時にも役にたつので、ふとした時に意識してやってみるのがおすすめです。入浴中や、ストレッチなどと合わせてやると、更に良さそうですね。
適度に運動をしよう
運動には健康の保持増進だけでなく、気分転換やストレス解消に効果的だと言われています。(※10)
運動をすることで幸せホルモンのセロトニンが分泌されるだけでなく、別名「脳内麻薬」といわれるエンドルフィンも分泌されるのです。簡単に取り入れることができる運動は、ウォーキングです。ご自身の体調と相談しながら、心地よいと感じることができるところから取り入れてみましょう。
その他、ヨガやピラティス、スイミングなども妊婦さんにおすすめの運動です。
泣いてすっきりしよう
人は、ストレスを強く感じていると、交感神経が優位になります。そして、「泣く」という行為は、副交感神経を優位にさせる働きがあります。(※11)
妊娠して涙もろくなったと言われる妊婦さんも時々いらっしゃいますが、もしかしたら自分を守るための本能的な働きなのかもしれませんね。泣ける映画、泣けるドラマなど、色々な泣けるシリーズを味方につけて、たまには思いっきり泣いてしまいましょう。
腸内環境を整えよう
「腸脳相関」と呼ばれる概念があり、腸と脳がお互いに関係しあっているという考えがあります。そして、腸内環境を整えると、ストレスや不安が緩和されることが明らかになっています。(※12)
反対に、ストレス過多の状態だと、腸内環境にも変化が出ることが分かっているようです。(※13)
つわりが落ち着いたら、生活習慣や食習慣を意識して腸内環境を整えることがストレス対策になりそうですね。腸内環境を整えるためには、発酵食品や水溶性食物繊維などを取り入れることがおすすめです。
質の良い睡眠をとろう
睡眠には、ホルモンバランスや自律神経を整える効果があります。反対に睡眠不足が続くとストレス耐性が落ちてしまいます。(※14)寝不足でイライラした経験はありませんか?
質の良い睡眠のためには、前述した「朝日を浴びること」や「適度に運動する」ことも関係してきそうですね。
また、お腹が大きくなってくると、睡眠に影響が出てくることも。お腹が大きくなって寝苦しさを感じたら、クッションや抱き枕などを活用してみて下さいね。
妊娠初期のストレス・イライラは自分にあった方法で対策を
妊娠初期は、自分で感じる変化や不調は多いのに対して、周りにも気付かれにくい時期。中には、安定期に入るまでは妊娠を周りにも話さない選択をされる方もいらっしゃると思います。そんな時期だからこそ、一人で抱え込んでいる方も…。
数あるストレス解消方法から、自分にあったものが見つかると嬉しいです。調子のいい時に少しずつ取り入れていくことでストレス耐性ができてくるものもあるので、ぜひご活用下さい。
また、自分一人で抱えきれないことに関しては、周りにサポートを求めることも必要なことです。
性格的に苦手な方もいるとは思いますが、育児をしていく上でも一人では解決できないことはたくさんあります。今のうちから、人に頼る練習を始めてみてもいいかもしれませんね。
参考文献:
(※1)妊娠中の低栄養やストレスが子の高血圧の原因に 遺伝子レベルで解明 | ニュース
(※2)胎児期の栄養が生活習慣病の発症に及ぼす影響のエピゲノム解析
(※3)妊娠期の母体ストレスと脳機能形成異常
(※4)胎生期ストレス刺激が惹起する ストレス脆弱性と脳内 5-HT 神経機能異常
(※6)母性健康管理指導事項連絡カード
(※8)一流のビジネスマンは、朝の過ごし方が違う | 脳のストレスを「溜めない」 8つの方法 | THE21オンライン
(※10)体を動かす|こころと体のセルフケア
(※11)涙とストレス緩和
(※12)「腸脳相関(ちょうのうそうかん)」って知ってる? 腸内環境とストレスの関係【医師に聞く】
(※13)ストレスと腸内フローラ
記事の監修
岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。
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