PMS(月経前症候群)に漢方は効く?選び方や効かない時の改善方法
症状は人それぞれで、イライラ、頭痛、疲労感、腹痛など、さまざまな形で現れます。
このような症状に対して、漢方薬は古くから利用されてきました。漢方薬は体質に合わせて選ぶことで、より効果的にPMSの症状を和らげることができます。
この記事では、PMSの症状と体質に応じたおすすめの漢方薬について詳しく紹介していきます。
PMS(月経前症候群)とは
PMS(月経前症候群)は、多くの女性が月経前の数日から2週間の間に経験する身体的および精神的な不調の総称です。
この期間中、女性の体内ではホルモンバランスが劇的に変化します。特に、エストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)のレベルが大きく変動することで、さまざまな症状が引き起こされます。
ホルモンバランスの変化
月経周期の後半、排卵が終わると、黄体ホルモンの分泌が増加します。このホルモンは子宮内膜を厚くし、妊娠の準備を助けます。
しかし、妊娠が成立しない場合、黄体ホルモンのレベルは急激に低下し、このホルモンの変動がPMSの症状を引き起こすと考えられています。
よく起きるPMSの症状
PMSの症状は非常に多様であり、人によって異なりますが、一般的には以下のような症状がよく見られます。
身体的症状
- 腹痛や腰痛
- 頭痛や偏頭痛
- 胸の張りや痛み
- むくみ
- 疲労感
- 便秘や下痢
精神的症状
- イライラや不安感
- 抑うつ気分
- 集中力の低下
- 感情の起伏
- 睡眠障害
これらの症状は、月経が始まるとともに軽減することが多いですが、日常生活に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。
PMSと漢方
漢方薬は古くからPMSの有効な治療法として利用されてきました。漢方は、西洋医学とは異なるアプローチで体全体のバランスを整えることを目的としています。
そのため、PMSのような複数の症状が同時に現れる状態に対して、全体的な調和を図ることで効果を発揮します。
漢方は、「気」「血」「水」という三つの要素のバランスを重視します。これらのバランスが崩れると、体調不良や病気が発生すると考えられています。
PMSにおいても、ホルモンバランスの変動が「気」「血」「水」の不調を引き起こし、さまざまな症状が現れるとされています。漢方薬は、このバランスを整えることで、症状の緩和を目指します。
体質セルフチェック
以下のチェックリストを使って、自分の体質を確認してみましょう。それぞれの質問に対して「はい」または「いいえ」で答えてください。最も多く「はい」と答えた項目が、あなたの体質タイプを示しています。
気虚(ききょ)
いつも疲れやすく、元気が出ない。
少し動いただけで息切れや汗をかく。
声が小さく、話すのが億劫。
頭がぼんやりして集中力が続かない。
食欲があまりなく、消化不良を起こしやすい。
血虚(けっきょ)
顔色が青白く、唇や爪の色が薄い。
頭痛やめまいが頻繁に起こる。
手足が冷えやすく、冷え性である。
髪の毛が抜けやすく、艶がない。
不眠や夢をよく見る。
水滞(すいたい)
むくみやすく、特に朝起きたときに顔がむくむ。
寒がりで、湿った環境に弱い。
食欲がなく、食べた後に胃が重く感じる。
尿の量が少なく、色が濃い。
肌がかさつきやすく、乾燥する。
気滞(きたい)
ストレスが溜まりやすく、イライラすることが多い。
胸やお腹に張りを感じる。
げっぷやおならが多い。
喉に違和感を感じることがある。
PMSの際に特に情緒不安定になる。
瘀血(おけつ)
肌の色が暗く、シミやあざができやすい。
慢性的な痛みや凝りがある。
生理痛が強く、経血に塊が混じることがある。
唇や歯茎の色が紫がかっている。
髪の毛が抜けやすく、頭皮が硬い。
陰虚(いんきょ)
のぼせやすく、手足がほてる。
乾燥しやすく、肌や口が乾く。
夜間に汗をかくことが多い。
不眠や夢をよく見る。
便秘になりやすく、便が固い。
各項目で「はい」が最も多かったものが、あなたの体質タイプです。次に、それぞれの体質に応じたおすすめの漢方薬を紹介します。
体質別おすすめの漢方の選び方
自分の体質がわかったら、その体質に合った漢方薬を選ぶことが重要です。漢方薬は個々の体質や症状に応じて処方されるため、適切なものを選ぶことでPMSの症状を効果的に緩和することができます。
ここでは、各体質別におすすめの漢方薬を紹介します。
疲れやすい「気虚」タイプ
「気虚」タイプの人は、身体のエネルギーである「気」が不足している状態です。これにより、全身の機能が低下し、さまざまな不調が現れます。
以下の特徴が見られる場合、「気虚」タイプである可能性が高いです。
少し動いただけで息切れや汗をかく。
声が小さく、話すのが億劫。
頭がぼんやりして集中力が続かない。
食欲があまりなく、消化不良を起こしやすい。
「気虚」タイプのPMSの特徴
「気虚」タイプの人は、PMSの際に以下のような特徴的な症状が現れることが多いです。
胃腸の不調や食欲不振。
頭痛やめまい。
気分の落ち込みや無気力感。
これらの症状は、ホルモンバランスの変動に加えて、気の不足が影響しているためです。
「気虚」タイプにおすすめの漢方
「気虚」タイプのPMSには、体力を増強し、気を補う漢方薬が効果的です。以下の漢方薬がおすすめです。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
全身の気を補い、体力を増強する効果があります。疲れやすく、胃腸が弱い人に特に適しています。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
気と血の両方を補う漢方薬で、全身の虚弱状態を改善します。慢性的な疲労感や体力低下に有効です。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
気血両虚に対して効果があり、体力を増強し、免疫力を高めます。食欲不振や消化不良にも効果的です。
これらの漢方薬を用いることで、気虚タイプのPMS症状を和らげ、月経前の不快な期間をより快適に過ごすことができます。
貧血になりやすい「血虚」タイプ
「血虚」タイプの人は、血が不足している状態で、身体の隅々まで栄養が行き渡らないことからさまざまな不調が現れます。
以下の特徴が見られる場合、「血虚」タイプである可能性が高いです。
頭痛やめまいが頻繁に起こる。
手足が冷えやすく、冷え性である。
髪の毛が抜けやすく、艶がない。
不眠や夢をよく見る。
「血虚」タイプのPMSの特徴
「血虚」タイプの人は、PMSの際に以下のような特徴的な症状が現れることが多いです。
頭痛やめまいが増す。
手足の冷えが強くなる。
不眠や悪夢が増える。
髪の毛がさらに抜けやすくなる。
これらの症状は、ホルモンバランスの変動に加えて、血の不足が影響しているためです。
「血虚」タイプにおすすめの漢方
「血虚」タイプのPMSには、血を補い、全身の栄養状態を改善する漢方薬が効果的です。以下の漢方薬がおすすめです。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
血行を促進し、冷えやむくみを改善する効果があります。貧血や冷え性の症状に特に適しています。
四物湯(しもつとう)
血を補い、血行を良くする効果があります。特に女性の体質改善に広く用いられています。
八珍湯(はっちんとう)
気血を同時に補う漢方薬で、全身の虚弱状態を改善します。慢性的な疲労感や貧血に有効です。
浮腫みやすい「水滞」タイプ
「水滞」タイプの人は、体内の水分代謝が悪く、水分が体内に滞ることで様々な不調が現れます。以下の特徴が見られる場合、「水滞」タイプである可能性が高いです。
寒がりで、湿った環境に弱い。
食欲がなく、食べた後に胃が重く感じる。
尿の量が少なく、色が濃い。
肌がかさつきやすく、乾燥する。
「水滞」タイプのPMSの特徴
「水滞」タイプの人は、PMSの際に以下のような特徴的な症状が現れることが多いです。
胃腸の不調や食欲不振が増す。
頭重感やめまい。
冷え性が悪化し、手足が冷たく感じる。
肌の乾燥やかゆみが増す。
「水滞」タイプにおすすめの漢方
「水滞」タイプのPMSには、体内の水分代謝を促進し、余分な水分を排出する漢方薬が効果的です。以下の漢方薬がおすすめです。
五苓散(ごれいさん)
体内の水分代謝を改善し、むくみや水分滞留を解消する効果があります。特にむくみが強い場合に有効です。
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)
水分代謝を促進し、体内の余分な水分を排出します。むくみやすい体質に適しています。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
胃腸の調子を整えながら、水分代謝を促進する効果があります。胃腸が弱く、むくみやすい体質に有効です。
イライラしやすい「気滞」タイプ
「気滞」タイプの人は、体内の気の流れが滞りやすく、ストレスや感情の変化に敏感です。このため、精神的な不調が身体にも影響を及ぼしやすくなります。以下の特徴が見られる場合、「気滞」タイプである可能性が高いです。
胸やお腹に張りを感じる。
げっぷやおならが多い。
喉に違和感を感じることがある。
PMSの際に特に情緒不安定になる。
「気滞」タイプのPMSの特徴
「気滞」タイプの人は、PMSの際に以下のような特徴的な症状が現れることが多いです。
胸やお腹の張り感が増す。
げっぷやおならが頻繁に出る。
喉の違和感が強くなる。
感情の起伏が激しくなる。
これらの症状は、ホルモンバランスの変動に加えて、気の滞りが影響しているためです。
「気滞」タイプにおすすめの漢方
「気滞」タイプのPMSには、気の流れを改善し、精神的なバランスを整える漢方薬が効果的です。以下の漢方薬がおすすめです。
加味逍遥散(かみしょうようさん)
精神を安定させ、気の滞りを解消する効果があります。特にストレスや不安感が強い場合に有効です。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)喉の違和感や胸の詰まり感を解消し、気の流れを改善します。精神的な不調にも効果的です。
柴胡疎肝湯(さいこそかんとう)気の滞りを改善し、肝機能を整える効果があります。イライラ感や情緒不安定に有効です。
顔がほてって手足が冷える「瘀血」タイプ
「瘀血」タイプの人は、血行が悪く、体内に血の滞りが生じやすい状態です。このため、様々な不調が現れます。以下の特徴が見られる場合、「瘀血」タイプである可能性が高いです。
慢性的な痛みや凝りがある。
生理痛が強く、経血に塊が混じることがある。
唇や歯茎の色が紫がかっている。
髪の毛が抜けやすく、頭皮が硬い。
「瘀血」タイプのPMSの特徴
「瘀血」タイプの人は、PMSの際に以下のような特徴的な症状が現れることが多いです。
顔がほてりやすく、手足が冷える。
肩こりや頭痛が増す。
肌の色が暗く、シミやあざが目立つ。
唇や歯茎が紫がかる。
これらの症状は、ホルモンバランスの変動に加えて、血行不良が影響しているためです。
「瘀血」タイプにおすすめの漢方
「瘀血」タイプのPMSには、血行を促進し、血の滞りを解消する漢方薬が効果的です。以下の漢方薬がおすすめです。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血行を改善し、瘀血を解消する効果があります。特に生理痛や血行不良による症状に有効です。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
血行を促進し、血の滞りを改善する効果があります。強い生理痛や経血の塊に有効です。
冠心二号方(かんしんにごうほう)
血行を改善し、瘀血を解消する効果があります。肩こりや頭痛、冷え性にも効果的です。
水分が足りない「陰虚」タイプ
「陰虚」タイプの人は、体内の陰液(体液や血液などの滋養分)が不足している状態です。このため、体が乾燥しやすく、さまざまな不調が現れます。以下の特徴が見られる場合、「陰虚」タイプである可能性が高いです。
乾燥しやすく、肌や口が乾く。
夜間に汗をかくことが多い。
不眠や夢をよく見る。
便秘になりやすく、便が固い。
「陰虚」タイプのPMSの特徴
「陰虚」タイプの人は、PMSの際に以下のような特徴的な症状が現れることが多いです。
肌や口の乾燥がひどくなる。
夜間の発汗が増える。
睡眠の質が低下し、不眠や悪夢が増える。
便秘が悪化し、便がさらに固くなる。
「陰虚」タイプにおすすめの漢方
「陰虚」タイプのPMSには、陰液を補い、体内の潤いを保つ漢方薬が効果的です。以下の漢方薬がおすすめです。
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
陰液を補い、体の乾燥を防ぐ効果があります。のぼせや手足のほてり、夜間の発汗に有効です。
知柏地黄丸(ちばくじおうがん)
六味地黄丸に加えて、清熱作用が強化された漢方薬です。体内の熱を冷まし、陰液を補う効果があります。
麦門冬湯(ばくもんどうとう)
体内の乾燥を潤し、咳や喉の乾燥を改善します。便秘や肌の乾燥にも効果的です。
漢方が効かない時は?
漢方薬を試してもPMSの症状が改善されない場合があります。そのような場合には、以下の対処法を考えてみましょう。
漢方薬を見直す
漢方薬は体質に合わせて選ぶことが重要です。しかし、体質の変化や症状の変化により、最初に選んだ漢方薬が合わなくなることもあります。
その場合は、漢方医や薬剤師と相談しながら、別の漢方薬に変更することを検討してください。
例えば、季節や生活環境の変化によって体質が変わることがありますので、定期的な見直しが必要です。
食生活の見直し
食生活を見直すことも、PMSの症状を改善するために重要です。特に腸内環境を整えることにより、セロトニンの分泌量が増え、PMSが落ち着きやすくなります。以下のポイントを意識して食生活を改善してみましょう。
発酵食品を摂る
ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌などの発酵食品は、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整える効果があります。
食物繊維を多く含む食材
野菜、果物、全粒穀物、豆類などを積極的に摂ることで、腸内環境が改善されます。
糖分や脂肪分を控える
加工食品や砂糖、飽和脂肪酸を多く含む食品を控えることで、腸内環境の悪化を防ぎます。
水分を十分に摂る
水分をしっかりと摂ることで、腸の働きが促進されます。
腸内環境が整うと、セロトニンの分泌が促進され、気分が安定しやすくなります。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、PMSの精神的な症状を和らげる効果があります。
生活を見直してPMSを改善していこう
PMSの症状に悩まされるときは、漢方薬を上手に利用して対策を講じることが重要です。
しかし、漢方薬が効果を発揮しない場合もあります。そのようなときは、食生活や生活習慣を見直してみましょう。腸内環境を整えることでセロトニンの分泌が促進され、気分が安定しやすくなり、PMSの症状も軽減される可能性があります。
自分に合った方法を見つけ、生活全体を見直して、快適な毎日を過ごせるようにしましょう。
記事の監修
岡山大学歯学部を卒業後、都内医療法人の理事長(任期4年3ヶ月)を務める。クリニック経営を任されながらも、2,500名以上の慢性疾患に対する根本治療を目指した生活習慣改善指導などを行う。
医療法人時代の日本最先端の研究者チームとのマイクロバイオーム研究や、菌を取り入れることによって体質改善した原体験をきっかけに菌による根本治療の可能性を感じ、2018年12月に株式会社KINSを創立。2023年8月にシンガポールにて尋常性ざ瘡(ニキビ)に特化したクリニックを開院。
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